トップメッセージ
当期を転換点として、資本効率重視の経営への変革を推進し、経営の実効性を高めてまいります

平素は格別のご高配を賜りまして厚く御礼申し上げます。
このたび代表取締役社長に就任いたしました矢島昌明でございます。社長就任にあたりまして、皆様に謹んでご挨拶を申し上げます。
前期(2023年3月期)につきましては、主要市場である日本・中国・米国が低迷したことから、厳しい業績結果となりました。また、米国事業において大きな減損損失を計上したことも影響し、創立以来、はじめて最終赤字を計上する結果となりました。株主の皆さまをはじめとするステークホルダーの皆さまにご心配をおかけしたことにつきまして、重大に受け止めております。
また、当社グループにおいては、将来の成長を加味した市場評価である時価総額が純資産を下回る状況(PBR1倍割れ)が長期的に続いています。そのため、収益性の改善や事業ポートフォリオマネジメントの強化などを通して、資本コストを上回る資本収益性を達成し、早期に低迷するPBRを1倍以上の水準に回復させることを重要課題として認識しています。
当期を転換点として、各事業会社・各事業部が従来以上に収益性と資本効率を重視する経営へ移行するとともに、実効性の高い戦略を策定・遂行することで、持続的な成長を通じた中長期的な企業価値向上を実現してまいります。
ワコールグループの課題
現在の当社グループには、大きく3つの課題があると考えています。1つ目の課題は、「収益性」です。これまでも、グループ全体の収益力強化に向けて、各事業会社で「コスト構造改革」や「ビジネスモデルの再構築」などの取り組みを進めてきましたが、筋肉質な経営への転換を図るためには、さらにもう一歩構造改革を進める必要があると考えています。2つ目の課題は、「ガバナンス」です。ワコールホールディングスと事業会社の役割整理が十分でなかった部分が残っていたことにより、事業会社の経営に対する監督機能が効果的に機能していないケースがありました。役割を整理し、正しく機能させることで、経営の実効性を高めてまいります。3つ目の課題は、「企業文化」です。当社グループは創業期から挑戦を繰り返し、成長を実現してきた企業です。本来の姿である挑戦する企業風土を取り戻す必要があります。
2024年3月期の取り組みについて
2024年3月期につきましては、多くの国や地域で、感染症の収束に伴う個人消費回復の期待と、物価高や地政学リスク、金融不安などに伴う消費減速の懸念が混在していることから、不安定な事業環境が継続するものと想定しています。このような環境のもと、当社グループは引き続き、「サステナビリティ経営」を推進してまいりますが、課題である「業績の立て直し」と「PBRの改善」を早期に実現するためには、これまで以上に経営の実効性を高める取り組みが必要となります。そのため、当期は「資本効率重視の経営へさらなる変化」「事業収益力の改善」「ガバナンスの強化」に注力してまいります。
当社グループが低い資本収益性にとどまっている原因のひとつに、各事業会社や事業部がPL重視の事業運営を行っていたことが挙げられます。また、親会社のワコールホールディングスにおいても投下資本に対するリターンの最大化の観点から投資・撤退の判断、事業ポートフォリオの見直しが十分に行えていませんでした。これらを踏まえ、資本収益性の改善に向けてROICをKPIとして導入するための検討を開始しています。ワコールホールディングス、ならびに各事業会社・各事業部が従来以上に収益性と資本効率を意識する経営へと移行させるとともに、規律のある事業ポートフォリオマネジメントを推進してまいります。
また、業務執行に対する取締役会の監督機能のさらなる強化を図り、経営の実効性を高める必要もあります。当期においては、当社の課題である収益力と資本効率の改善を着実に実行するために取締役会のスキルセットを検証し、投資・金融資本市場に関する経験や知見を有する社外取締役を追加選任しました。
コスト構造改革のスピードアップ
感染症拡大に伴う各国・地域の行動規制は緩和されたものの、感染症の経験を通して変化した消費者ニーズや消費行動への対応が不十分であったため、収益の回復が遅れています。新しい顧客体験価値の提供と新規事業の創出によって再成長を実現すると同時に、コスト構造改革を継続し、事業効率を高めてまいります。
中核事業会社であるワコールについては、売上の低迷と固定費率の高いコスト構造を背景に、収益性が落ち込んでいる状況です。トップラインの成長回帰と収益性の改善に向けて、「ブランド戦略と顧客戦略の再構築」ならびに「コスト構造改革のスピードアップ」に取り組みます。ブランド戦略については、各ブランドの顧客像やブランドストーリー、成長の道筋、お客さまに選ばれる必然性を明確にするとともに、数値的な背景を含めて、戦略の再整備を進めます。顧客戦略については、LTVの最大化を実現するために顧客の管理指標を見直します。顧客データを分析し、顧客行動の解像度を高めることで、精度の高いマーケティング施策を実行してまいります。またワコールの収益性の改善に向けては、売上の回復が遅れている現段階では、もう一段踏み込んだ構造改革に取り組む必要があります。現在、新経営陣が中心となり、追加の改善施策や実施スケジュール、損益インパクト、推進体制を検討しています。構造改革の精度と実効性を高めるため、外部コンサルティング会社の活用についても検討を進めています。なお、海外事業については、中核戦略であるEC事業の強化に加えて、各市場の特性に応じた商品力の強化に継続して取り組むこと、売上状況に応じた適切なコストコントロールを実行することなどを通じて目標とする利益の確保を目指してまいります。
サステナビリティへの取り組み
気候変動などの環境問題や、人権問題は深刻さを増しており、持続可能な社会に向けた取り組みが国際社会や顧客から強く要請されています。当社グループは、2022年4月に国際的な枠組みである「国連グローバル・コンパクト」に参加し、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野10原則に沿って、国際社会と協調した事業活動を行っています。また、重要なサステナビリティ課題への対応強化を図るため、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会ならびに4つの推進部会を設置し、サステナビリティ課題に対する具体的な取り組み施策の立案、進捗状況のモニタリング、達成状況の評価を行っています。
「人権」については、2022年4月に「ワコールグループ人権方針」を国連が定めた「ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠した内容に改定しました。すでに「ワコールグループCSR調達ガイドライン」の定める内容の遵守状況を的確に把握し、継続的な是正・改善につなげるサイクルの運用を開始していますが、今後は国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠した人権デューデリジェンスの考え方に基づいて、人権への悪影響を低減・防止し、人権尊重への取り組みを強化してまいります。
「環境」に関しては、2021年9月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同を表明し、2022年6月に開示を行いました。現在は、温室効果ガスの排出量の削減に向けた具体的な行動計画の策定を進めているほか、環境配慮型素材の使用比率向上、製品破棄の低減、リサイクル活動などの取り組みも推進しています。
中期経営計画をリバイズ
なお、2023年5月19日(金)に公表したとおり、現在の中期経営計画のリバイズを実施することとしました。中期経営計画で掲げる事業戦略を再点検するとともに、収益性と資本効率の改善に向けた経営の基盤強化策を改めて検討し、2023年11月頃に公表する予定です。
当社グループを取り巻く環境は厳しさを増しており、再成長への道のりは決して簡単なものではありませんが、こうした環境変化こそが新たな成長への最大のチャンスと捉え、グループ一丸となって大きな挑戦をやり遂げる所存です。
ステークホルダーの皆さまには、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。
㈱ワコールホールディングス 代表取締役 社長執行役員
