トップメッセージ

覚悟をもって改革を実現させ、“下着のワコール”を超え、
社会に必要だと認められる企業を目指します

ワコールグループの現在地

平素は格別のご高配を賜りまして厚く御礼申し上げます。
 中期経営計画の見直し(以下、中計リバイズ)を発表してから約1年、掲げた基本方針を着実に実行に移してまいりました。具体的な成果が出現するまでには時間を要する取り組みもありますが、これまでの当社内の“当たり前”を見直し、新たなアプローチに挑戦したことで、成功事例も出始めています。一方、その間に当社グループは、二度目の早期退職という、痛みを伴う改革を実行しています。株主や従業員をはじめとするステークホルダーの皆さまにご心配をおかけしていることを重大に受け止めています。
 当社グループが中計リバイズで進めている改革は、どれもその方向性に間違いはないと確信しています。しかしながら、社内には戸惑いや不安を感じる従業員もおり、変革を進めるうえで現場に混乱や衝突が生じていることも事実です。この状況に対し役員がすべきことは、なぜ今、改革が必要なのかを丁寧に説明し続け、行動を後押しすることです。たとえすぐに良い成果が得られずとも、妥協せずトライしたのであれば、その行動は大いに評価します。直近では自身の意見を積極的に示す従業員も増えてきており、上長や経営陣が一人ひとりのチャレンジに耳を傾け、認めることが、従業員のマインドを変え、ひいては会社の風土を変えていくことにつながると考えています。
 これまで当社グループは、業績が低迷しながらも、課題に対する改革を徹底してやり切ることができませんでした。その要因の一つ目は、明確なKPIが設定できていなかったことです。定めた目標に対しどのようなプロセスを踏み、どのような結果が得られたのかを、より明確に把握し検証する必要があると考えています。今後は目標達成に向けたプロセスに対してもKPIを設定し、進捗と結果を追いかけてまいります。
 要因の二つ目は、変化するお客さまニーズへの対応が遅れたことです。近年のインナーウェア市場をみると、バストの造形性を優先した“機能性”以上に、つけごこちや楽さを優先した“快適性”が重視される傾向にありますが、そのどちらかの要素が満たされていればよいというわけではありません。ワコールの強みを生かした、機能性と快適性を両立させた商品を提案できなかったことは反省点であり、今後の学びとなりました。25年3月期はワコールの店舗やECサイトに寄せられるお客さまの声を参考にし、ニーズに合った商品の開発を強化します。さらに3D計測サービス「SCANBE(スキャンビー)」を活用し、インナーウェアを買うためだけではなく、ご自身のからだに関心を持っていただくことを入口に、サイズ計測の大切さを知ってもらう機会を増やしていきます。ワコール独自のサービスを通してさまざまな接点を用意することで、インナーウェア選びの基準に多様な選択肢があることを示していくことが重要だと考えています。

中計リバイズの進捗

当社グループが進めている中計リバイズの基本方針は、記載の4点です。

大前提としてお伝えしたいのは、抜本的なコスト構造改革としてブランド集約や不採算事業への対処なども進めていますが、それは効率化と成長の両輪を持って当社グループが歩めるよう実施している改革であり、決して企業の規模や競争力を小さくするものではありません。お客さま一人ひとりの「自分らしさ」をエンパワーメントする商品とサービスをお届けするためにも、まずは顧客ニーズの変化に迅速・的確に対応できるビジネスモデルを確立することが求められます。そして、コスト構造改革を進めながらブランド力・顧客ロイヤリティ・人財力を高め、「VISION2030」で掲げる『世界のワコールグループ』としての進化・成長を目指します。

ビジネスモデル改革

(株)ワコールでは、収益力と資本効率の改善に向け、ビジネスモデル改革(サプライチェーンマネジメント改革、コスト構造改革)と、次の成長を見据えた成長戦略(顧客戦略、ブランド戦略、人財戦略)を実行しています。
 まず、顧客のニーズや市場の変化に迅速に対応できるように、サプライチェーンマネジメントの改革を進めています。特に注力するのは、店舗の商品構成の最適化、需要連動型生産体制の構築、企画開発リードタイムの短縮の3つのプロセス改革であり、これらの実現のために、各部門が全体最適の視点を持ち、連携を強めながら取り組んでいます。
 コスト構造改革については、広告宣伝費や人件費にとどまらず、生産面においても抜本的な見直しを進めています。1つは、縫製工程の見直しです。商品の強度や機能、装飾性は保ちながらも、製造や製品試験、検品などの工程上の無駄を省くことで、コストを削減できると考えています。もう1つは、生産体制の見直しです。2024年8月に国内工場の集約と再編を発表していますが、将来的な市場セグメントごとの需要予測とブランドポートフォリオ戦略に照らし、国内外の工場の役割を明確化しました。国内では、高価格帯ブランドをはじめ、技術品質や納期、付加価値の観点から国内生産に優位性のあるアイテムの製造に注力し、それ以外の製品は、ベトナムを中心に海外工場での生産比率を増やしていきます。生産事業の効率的な運営を実現するとともに、技術力・生産能率の向上を図り、当社グループの競争優位性をさらに高めてまいります。

成長戦略

お客さまとの関係づくりについても、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用しながら、深く広く長い関係性の構築に努めていく必要があると考えています。当社グループには、「SCANBE(スキャンビー)」で得られたボディデータや、ワコール人間科学研究開発センターでのこころとからだの研究に加え、店舗やECサイトに寄せられたお客さまの声や購買情報、ビューティーアドバイザー(BA)の接客知見など、多くの情報が蓄積されています。これらのデータを最大限に活用し、よりパーソナライズされた商品・サービスの開発を目指します。
 あわせて、ブランドの在り方も見直していきます。かつてのワコールには数多くのブランドが存在していましたが、それぞれのベネフィットをお客さまへ明確に提示することができていませんでした。今回、ブランドを絞り込み、市場セグメントやお客さまのニーズに応じてポートフォリオを設定し直すことで、提供価値の明確な魅力あふれるブランドを育成し、多様な価値観にお応えしていきます。
 海外事業については、中核戦略としているEC事業の強化に加え、各エリアの特性に応じた商品力の強化に取り組んでおり、今後もその方針を継続していきます。各国ともに、現地法人とのコミュニケーションをより密にしながら、強い連携の下で将来に向けた成長戦略を実行していきます。

資本効率の改善

当社グループは、資本効率性の改善を図り、筋肉質な経営に転換するために、ROICマネジメントの導入を進めています。25年3月期はROICを使ったグループ全体の業績評価や、国内事業におけるROICツリーを使った計画策定、業績管理のスリム化に着手しており、次期中期経営計画(27年3月期~)から資本効率重視の経営が実現できるよう、ROIC経営管理の仕組みを整備・強化してまいります。
 アセットライト化の推進では、企業価値向上に寄与しない資産については、整理を進めていきます。現在は中計リバイズで掲げた目標に沿って、在庫の圧縮や政策保有株式の縮減、保有不動産の整理などを順次進めています。

サステナビリティへの取り組み

世界では、気候変動などの環境問題や、人権問題はさらに深刻さを増しており、企業に対して持続可能な社会に向けた取り組みが強く要請されています。25年3月期については、当社グループにおいて特に重要課題として認識している、人権と人的資本への取り組みを強化してまいります。
 2023年10月、当社グループはサプライチェーンにおける潜在的な人権リスクを把握するため、社外専門家の知見を活用し、「人権リスクアセスメント」を実施しました。また、人権デュー・ディリジェンスの運用開始に向けた準備も進め、主にCSR調達に関わる人権について、「ワコールグループ人権方針」のもと人権尊重をグループ全体で推進しています。2024年8月には、従業員やお客さまの人権についても社内で教育を開始しています。「多様なお客さまが利用しやすい売場づくりと接客のためのハンドブック」を制作し、当社Webサイトで公表いたしました。さまざまなお客さまが利用しやすい売場環境やWebサイトの整備、接客時の心がけなどの方針を、従業員向けにまとめた指南書として活用していきます。ワコールの従業員はこのハンドブックの事例を参考にしつつ、一人ひとりのお客さまに寄り添い、それぞれのお困りごとに合わせた柔軟な対応を心がけていきます。
 また、当社グループを再び成長軌道に乗せるには、発揮された従業員一人ひとりの力が、組織の成果に結びつかなければなりません。研修や学びを支援することはもちろん、実力のある人財を登用し、活躍する場を提供します。ホンコンワコールやフィリピンワコールでは、すでに女性社長も誕生しており、当社グループ全体でも責任あるポジションで女性従業員が活躍し、社内に多様なロールモデルが増えていくことを期待しています。加えて、サクセッションプランについても今後導入していく予定です。将来の取締役や執行役員候補者のコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルを把握し、当社グループの今後を担う人財として評価していきます。実力ある従業員は年代や性別を問わず登用し、会社としてバックアップする体制や組織の力とするマネジメントに力を入れていきます。

ガバナンスへの取り組み

中計リバイズについては、取り組みの先送りや実施漏れが発生しないよう、社内・社外取締役で構成する「グループ戦略委員会」で進捗を共有しています。委員会で討議する際には、「世の中やステークホルダーに対し明確に説明できることなのか」を突き詰め、全員が納得する結論を出しており、結論の先送りや予定調和が起こることはありません。2023年、社長に就任した直後、私は社外役員の方々に忌憚ない意見や指摘をいただきたいとお願いしました。それが旧来の文化にとらわれず、新生ワコールとして生まれ変わる原動力になると思ったからです。社会やステークホルダーの皆さまから賛同を得られないような案件が決議されることのないよう、議論を深めてまいります。
 あわせて、資本市場とも積極的に対話の機会を設けています。ステークホルダーの皆さまと実際に顔を合わせ、生の声をいただくことは、当社グループが目指す方向性や現状を正確にお伝えできるだけでなく、我々がもつ強みや弱みに対する市場からの評価も知ることができます。また、中長期的な視点でマーケットを捉え、企業価値の成長を追求する投資家の皆さまとの対話から、今後の当社グループの成長を確実に実現するためのヒントをいただくことが多々あります。企業価値向上というゴールに向け、双方が理解を深め、気づきを得られる重要な機会だと認識しています。

これからのワコールグループ

これからの当社グループは、インナーウェアのみにとどまらず、幅広い領域において、お客さまから必要とされる企業になりたいと考えています。当社グループには、創業以来蓄積してきたものづくりのノウハウや、研究成果、ボディデータなど、多くの経営資源があります。ステークホルダーの皆さまとお話しすると、我々がまだ活かせていない強みや、その存在価値を認識すらできていない資源がたくさんあると気づかされます。それらの貴重な資源に目を向け、活用する範囲を拡大していくことが、当社グループの成長に直結すると確信しています。拡大の方向性として、まず一つは、グループ間での資源の横展開です。例えば、快適性に対応できるノンワイヤーブラは、国内のみならず、海外市場でもニーズの高いアイテムです。また、ブラジャー製造のノウハウを子会社のAi(アイ)での水着の開発に転用できたり、逆に水着の設計や素材に関する知見をブラジャー製造に転用できることもあります。それぞれが持つ資源を、事業の枠を超えて展開し合うことで、グループ全体としての提供価値を上げていきます。資源活用のもう一つの方向性は、展開領域の拡大です。例えばコンディショニングウェアの「CW-X」は、スポーツ領域だけでなく、けがの予防や、からだのサポートに役立つ商品としての展開を模索しています。国内外で進めている技術開発や研究で得た資源を、インナーウェア以外の領域にも拡大させることで、ワコールの強みを生かした「美・快適・健康」事業の拡大を目指していきます。
 私が思い描く理想の未来は、いわゆる“下着”と呼ばれる分野を超えて、お客さまのライフステージや日常シーンにおいて、ワコールのことを想起いただける瞬間を増やしていくことです。当社グループの経営資源は、創業から今日まで、女性のからだとこころに寄り添い続けた歴史によって蓄積されてきました。お客さまに育てていただいたたくさんの資源を活かし、お客さまにお喜びいただける価値に換えてお届けすることが、我々の使命だと考えています。
 ステークホルダーの皆さまには引き続きご支援賜りたく、心よりお願い申し上げます。

代表取締役 社長執行役員
矢島 昌明
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