トップメッセージ

創業の精神と相互信頼で再成長の礎を築き
「自分らしさ」をエンパワーメントするワコールグループとなります

ワコールグループの現状と今後

 ワコールグループは、中期経営計画リバイズ(以下、中計リバイズ)のもと、従来型から脱却し、顧客起点での価値提供やグローバル事業の強化、ブランド価値向上といった新たなビジネスモデルへの転換に注力しています。足元では、商品価格に対する顧客需要の二極化や中計リバイズ策定時と比較し原価高騰が進むなど、社会・経済環境の急激な変化により依然として厳しい外部環境が継続していますが、グループの変革に向けて一歩一歩取り組みを進めています。私自身、過去のビジネスモデルからの変革の必要性を強く感じており、全社一丸となって課題解決に臨んでいます。
 中計リバイズを推進して2年が経過し、本部から現場まで戦略の浸透を図る中で、本質的な変化を実感しつつあります。一方で、ビジネスモデル転換のスピードアップは不可欠であり、課題解決の規模感も足りていません。現在はDX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化や、「人だからこそできる」価値創造に従業員が注力できる環境づくりを進めていますが、まずは従業員一人ひとりが自身の役割を理解し、小さな成果を積み重ね、行動し、前進することが重要だと考えています。

ワコールグループが大切にしてきたこと

 ワコールグループは、創業者 塚本幸一が「世の女性に美しくなってもらうことで広く社会に貢献したい」との強い想いから誕生しました。この創業の精神は、人や社会を幸せにすることを原点とし、「従業員を信じて任せる」という“相互信頼”の文化を生み出しました。この“相互信頼”は従業員の意欲を高めるだけでなく、取引先や社会との関係にも広がり、グループの理念として受け継がれています。創業の精神や“相互信頼”は、従業員に誇りと共感をもたらし、ワコールグループのものづくりや成長を支えてきた大切な礎です。
 主力商品であるインナーウェアは、人のからだとこころに最も近い距離で寄り添う商品です。この距離感を大切にしながら、お客さま一人ひとりのここちよさや幸せを支えていくことが、私たちの使命だと考えています。そして、今、ワコールグループは多様な価値観を持つお客さまの毎日をサポートし続けることを目指しています。お客さま一人ひとりが自分らしくいられるよう、一番近い存在として寄り添う――これが、これからのワコールグループのミッションです。
 そのミッションを果たす核となるのは、もちろん従業員です。創業者は晩年、「あなたたちの力は自分が思っている以上だと信じてほしい」と語りました。この想いは“相互信頼”の源泉であり、現在ではエンパワーメントの概念につながります。私は創業者の言葉を今の従業員にも伝えたいと思います。従業員には自身の力を信じ、会社からエンパワーメントされていることを実感しながら、意欲を持って業務に取り組んでほしいと願っています。そして、その姿勢がお客さまをエンパワーメントすることにつながると確信しています。

「Empowering. WACOAL」が示すこれからのワコール

 2025年2月に(株)ワコールが発表したキャンペーンスローガン「Empowering. WACOAL」は、ワコールグループ全体の姿勢を表現したものともいえ、「一人ひとりの自分らしさに寄り添い続ける企業グループになる」という私たちの目指す姿を、体現したものです。
 今はお客さま一人ひとりが多様な価値観やニーズを持つ時代です。お客さま自身が豊富な知識と明確な要望を持つ今、従来の画一的な商品や年齢・性別などの枠組みにとらわれていては、共感を得ることはできません。こうした認識のもと、ワコールグループは中計リバイズでも顧客起点を柱に、お客さまをエンパワーメントする商品やサービスの創出に取り組んでいます。これまでの「女性美のワコール」から、「自分らしさをエンパワーメントするワコールグループ」への進化を目指しています。
 私はワコールグループを「幸せが循環する企業グループ」にしていきたいと考えています。お客さまに寄り添った商品・サービスを提供し、幸せを感じていただくことで対価をいただく。そしてその対価は従業員や取引先、地域社会、株主にも還元されます。お客さまの幸せに貢献することで、会社に関わるすべてのステークホルダーが幸福になれる――これが私の考える「幸せが循環する企業グループ」です。ワコールグループのものづくりへの情熱と“相互信頼”の精神を大切にすることで、どんな困難な時代も乗り越えられると信じています。
 創業の精神や“相互信頼”の考え方は国内のみならず、グローバルにも根付いています。かつて中国ワコールを担当していた際、反日感情が厳しい時期がありました。その時、私は現地の全従業員に向けて、「ワコールグループは高い理想のもと起業し事業を営み続けており、それを担っているのはあなたたちで、中国の人や社会の幸福に貢献していることを誇りに思ってほしい」と伝えました。多くの現地従業員がこのメッセージに共感してくれ、厳しい社会情勢の中でも一人の退職者も出すことはありませんでした。創業の精神や“相互信頼”の考え方が、グローバルにも浸透していることを実感しました。これは中国だけでなく、世界各国で根付いている企業文化だと感じています。

ESGへの取り組み、資本市場との対話

 ワコールグループは、関わる人や社会の幸せを実現するため、環境問題や社会課題への対応を着実に進めています。環境に配慮した素材の使用やエネルギーマネジメントシステムの導入、人権デュー・ディリジェンスの実施など、さまざまな取り組みを通じて、課題や対策を常に考え、実行していく企業であり続けます。
 ガバナンス面では、取締役会がその役割をしっかり果たし、実効性のある体制を構築することが重要であると考えています。社内取締役が社外取締役から忌憚のない指摘やアドバイスを受けられることは、ワコールグループにとって貴重であり、必要不可欠であると考えています。中計リバイズの策定から現在に至るまで、戦略的視点や時間軸の捉え方などについて多様な意見をいただき、議論を深めてきました。そのなかで重要なのは、執行役でもある社内取締役がオープンな姿勢で議論に臨み、ディスカッションを深め、最終的には責任を持って意思決定を行うことだと考えています。
 資本市場との対話において、ワコールホールディングスに投資すべきか否かを判断いただく材料を丁寧にお伝えすることが不可欠だと認識しており、今後も財務情報とともに社会、環境、ガバナンスについて取り組みと開示を進めていきます。投資家の皆さまとは、これからも積極的な対話を重ね、当社グループに期待される役割を的確に把握し、経営判断に反映していく考えです。

ワコールグループが目指す人的資本経営

 AIが進化する現代においても、「企業は人なり」と言われるように、人財の重要性はますます高まります。AIは情報やデータの収集・分析・伝達を高いレベルで行うことができますが、事業を成長させるためには、考える力や失敗を恐れずに挑戦する柔軟性が欠かせません。AIがどんなに進化しても、最終的な判断を下すのは人なのです。
 こうした中で、従業員には業務を遂行するだけでなく、社外で新しい考え方や文化に触れ、学び、その刺激や得た知見を仕事に活かしていく存在であってほしいと願っています。会社としても、従業員一人ひとりが持つ能力を最大限に活かし、さらに高められる人事施策を推進し、誰もが活躍できる環境を整えていきます。いきいきと働く先輩の姿に人間的な魅力を感じ、若い世代が「自分もこうなりたい」と思えるような会社でありたいと考えています。それは、経営陣自身も率先して学び、変化に柔軟に対応しながら、共に進化し続ける姿勢で経営に向き合うことで実現できるものです。
 そして、ワコールグループがさらなる変革を進める上では、「意欲ある従業員の行動を認め、評価する企業文化」の醸成が必要です。失敗を恐れず挑戦し、次のアクションにつなげていく。そのためにも従業員には「まず行動する」ことの大切さを伝え、トライ・アンド・エラーで目標に挑み続けてほしいと思います。それは経営陣にも同様で、何事も先送りせず、決断と実行で新たな価値を生み出していくことを肝に銘じています。
 上に立つ者が常に自己研鑽を重ねることで、従業員も刺激を受けて自ら努力し、会社全体が好循環で成長していく――これがワコールグループの目指す人的資本経営のあり方です。

さらなる成長に向けて

 ワコールグループの変革はまだ道半ばですが、国内外の役員・従業員が一丸となり、インナーウェアという枠を超えて、お客さま一人ひとりの「自分らしさ」を支える企業への進化に向けて着実に歩みを進めています。
 これまでお伝えしたように、私たちは激しい事業環境の変化やグローバルな課題にも果敢に挑みながら、ビジネスモデルの転換やESG・人的資本経営の強化、“相互信頼”といった創業から受け継がれる理念を土台に、未来を切り拓いていきます。グループ全体で、多様な価値観を持つお客さま、そして社会全体にとって、より良い価値提供できる企業へと成長する決意です。
 また、「VISION 2030」で掲げた未来像の実現に向けて、当社のリソースに加え、戦略的なM&Aも視野に入れ、お客さまのニーズに柔軟に応えていく体制の強化を進めていきます。
 今後も、ワコールグループは新しい挑戦を恐れず、一人ひとりがいきいきと活躍できる環境を整え、持続的な成長の礎を築いてまいります。ステークホルダーの皆さまとともに成長を実感できるよう、誠実に努力を重ねていく所存ですので、引き続き変わらぬご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

代表取締役 社長執行役員
矢島 昌明
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