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経営

【前編】お客さまの「ありたい姿」を喚起し、自分らしい「美・快適・健康」をエンパワーメントする商品・サービスを提供します

  • 川西 啓介Keisuke Kawanishi

    株式会社ワコール
    代表取締役 社長執行役員

意識改革を進め、変化に自信を持って前進

中期経営計画リバイズ(以下、中計リバイズ)の公表から約1年、高い収益力を確保できる体質へ変革するため、ビジネスモデル改革を実行するとともに、ブランド力・顧客ロイヤリティ・人財力の強化を進めてきました。説明会やタウンホールミーティングを通じて従業員と丁寧な対話を行うことで、向かう方向性とやるべきことへの理解が進み、一人ひとりが現状を自分事として捉え、意志を持って行動する意識も確実に根付きつつあります。現時点における中計リバイズの進捗は、構造改革が6合目、成長戦略は3合目程度の到達であり、今後も継続的な対話によって従業員の不安や迷いを払拭し、スピード感を意識しつつさらに団結力を高めてまいります。
 ワコールはこれまで、からだにぴったり合う商品を丁寧に作ることで市場のニーズに応えてきたという自負があり、ものづくりへの誇りやこだわりを大切にしてきました。しかしそれとは裏腹に、2000年頃から業績が低迷し始め、その要因と解決策を導き出せずにいました。昨年の中計リバイズ策定時に改めて追究したところ、我々は、ものづくりにこだわるあまり、企業視点での思考や体制から抜け出せずに「顧客視点」が欠如していたことが業績低迷の要因であろうという結論に至りました。つまり、中計リバイズをやり切るためには、これまでの視点を企業から顧客へ転換し、従業員全員が「全体最適」の考え方の下で動いていくための意識変革が必要です。253月期は特に重要な役割を果たす課長層との対話を重点的に行っていますが、従前のワコールとは異なり、やるべきことを明確に設定し、前向きに取り組んでいる現状も見えてきています。こうしたポジティブな変化を認め合い、計画に対して実現できたことを皆で共有しながら、自信を持って前進していくことが重要です。最終年度である263月期が迫る今、強いリーダーシップをもって目指す方向へ先導し、全社一丸となって中計リバイズの実現に取り組んでいく所存です。

ワコールをアップデートする中計リバイズ

我々が取り組まなければならないのは、企業起点のオペレーションから市場の変化に柔軟に対応する「顧客起点」のオペレーションへの移行です。これまでのワコールは、商品の企画・開発に長いリードタイムを要しており、柔軟なプロモーションや生産調整を実施できていませんでした。店舗需要に連動した生産や納品ができなかったことで、欠品による機会ロスや店頭在庫過多による返品、セール比率の上昇に加え、過剰在庫による物流効率の低下や材料損の発生など、売上利益低下の悪循環に陥っていました。中計リバイズでは、企画・開発のリードタイムを短縮し、顧客ニーズに応じて柔軟にプロモーションや生産を変化させる体制を構築することで、売れる商品を必要な分だけ作り、欠品させずに売り切ることを目指します。この取り組みにより、機会ロスや返品の削減、セール比率の低減、在庫水準の適正化といった、好循環への転換を実現します。

前編川西社長オペレーション比較.jpg

収益構造の基盤をつくる「ビジネスモデル改革」

■サプライチェーンマネジメント改革とコスト構造改革

中計リバイズのビジネスモデル改革の柱となる「サプライチェーンマネジメント改革」では、市場のニーズに応じたタイムリーな商品供給と欠品による機会ロスの解消によって、売上拡大と在庫効率の向上を目指しています。そのためには、短いリードタイムで企画・生産し、需要に応じて売場に商品を供給する「需要連動型生産」の体制構築が不可欠です。今期はこの「需要連動型生産」を進めるために、商品カテゴリの見直しを行いました。これまでは「継続品」と「新商品」の2カテゴリのみでしたが、5シーズン以上継続して生産する商品を「継続品」カテゴリから独立させ、「定番品」としてカテゴリを新設しました。5シーズン生産を続けていれば、資材や生産にかかるプロセスを予想しやすく、需要に連動した生産体制をとることが容易になります。ワコールは従来、新商品に偏重した商品構成を取っていましたが、これからは強い定番品を育てることに注力し、需要連動型生産の範囲を拡大していきます。 
 しかしながら課題もあります。工場主体で言えば、大きなロットで一度に多くの商品を計画的につくってきたからこそ、スケールメリットを活かした生産性のあるものづくりが可能でした。小さなロットでタイムリーな生産が求められる需要連動型生産は、これまでとは真逆のアプローチで生産性を高めなければならず、商品の生産量を決めて発注を担う部門と、生産を担う部門との間では利益相反も起きています。まさに「部分最適」でなく「全体最適」を追求する途上で生じた、前進するための解決すべき課題です。そうした中での打開策の一つが、今回の「定番品」の新設でした。生産面だけで捉えるのではなく、企画・開発から販売までのつながりを意識し、部分最適から全体最適への進化を感じられる事例です。

新たな価値を創造する「成長戦略」

■ブランド戦略

徹底した「顧客起点」での商品・サービスを提供するため、253月期からブランドマネージャー制度を導入しました。ターゲットの顧客層とその市場での差別化ポイントを明確にした8つのブランドに対してブランドマネージャーを設置し、各ブランドの提供価値を明確化していきます。企画から販売に至るまで一貫したマネジメントを行うことで、ブランド間のカニバリゼーションや部分最適を回避し、提供価値の明確な魅力あふれるブランドを育成することができます。実際に商品会議では、ブランドマネージャー同士が議論し合い、各ブランドの価値を踏まえた上で良い方向へと軌道修正する意見や提案が出されるなど、過去にはなかった動きが見られています。さらに、それぞれのブランドの強みが整理できたことで、商品の機能やデザイン、サービスの開発も進めやすくなりました。例えば、贅沢な素材を使った装飾性の高い商品の受注生産や、サイズやデザインをカスタムでオーダーできるサービスの開発を検討するなど、ワコールならではの強みを活かした提供価値を徹底的に突き詰めることができるようになりました。 組織についても、中核ブランドの「WACOAL(ワコール)」と「Wing(ウイング)」の商品部を統合し、インナーウェア事業全体で提供価値の再定義を進めています。24年の秋冬シーズンには「WACOAL(ワコール)」のリブランディングを実施し、コミュニケーションプランも一新しています。組織統合やブランドマネージャー制度については、成長戦略の実効に必要な体制の構築を目指すものですが、現状が最終形ではなく、今後も最適な体制づくりに向けて進化を続けていく考えです。


後編につづく