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【後編】社外取締役インタビュー ワコールグループに必要な“全体最適”を実現するため、外部目線での強いインプットを通じて、企業価値向上を目指します

(統合レポート2023より抜粋)

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  • 日戸 興史Koji Nitto

    株式会社ワコールホールディングス 社外取締役
    1983年3月 慶応義塾大学工学部計測工学科卒。2006年3月 同志社大学大学院ビジネス研究科卒。1983年4月 立石電機株式会社(現オムロン株式会社)に入社。2008年4月 オムロンヘルスケア株式会社 執行役員に就任。2014年6月同社 取締役執行役員専務 グローバル戦略本部長に就任。2017年4月 同社 取締役執行役員専務 CFO 兼 グローバル戦略本部長に就任(2023年3月退任、6月同社退社)。2023年6月 当社社外取締役 就任。(一社)日本CFO協会 理事、(公財)京都大学iPS細胞研究財団 理事

企業価値の向上に向けて、つながりを強化する

―中計リバイズで導入されたROICマネジメントは、日戸社外取締役の専門領域ですが、導入にあたり感じられた課題は何でしたか?

ROICマネジメントは、「稼ぐ力」と「価値を生み出す力」を両立し、各機能を強化させることにつながるものです。ただし、それを担い実現するのは従業員一人ひとりであって、執行責任者や関係するメンバーが部門を超えてひとつの方向を向き、何をすべきかを理解・納得して活動しなければ成し遂げられません。組織として競争力を持つためにもっとも重要なのは、「つながり」を意識することです。ROIC導入にあたっては、この点を非常に強く主張しました。物事は本来、因果関係でつながっています。しかし社内においては、因果関係が明確なもの、不透明なものが混在しているのが実情です。例えば、売上を確保しつつ在庫を減らそうとする場合、販売部門だけで実現するには限界があります。店頭商品構成の最適化、充足率の改善、余剰な在庫を防ぐ生産体制の構築、これらを達成するためには生産部門や企画部門も一緒になって議論しなければなりません。事業や部門がどのようにつながっているのかを徹底的に意識することで、目標達成には何が必要なのか、また何が不要なのかを判断できるのです。
 ワコールは、個々が真面目で、一生懸命仕事に向き合う企業文化があると言いましたが、裏を返せば、部門最適、部分最適に陥りやすい傾向が極めて強い企業だということです。今、ワコールグループに必要なのは、全体最適の考え方です。共有した目標に向かって、部門や個人がチームとなって協力しながら個々の役割を果たし、臨機応変に動いていかなければなりません。ただ幸いにも、ワコールは部門ごとに高い能力が備わっているため、既存の考え方ややり方、優先順位などを見直し、つないでいくことで最大限の力を発揮できると考えています。
 中計リバイズの策定過程では、サプライチェーンマネジメントは1か所でも駄目だと致命的になる可能性があること、持っているポテンシャルをフルに発揮するためにはエンド・ツー・エンドで調達から顧客までつなぎ切る必要があること、お客さまにタイムリーに商品をお届けできない限り、新商品開発やブランド開発をいくらやっても絵に描いた餅にすぎないことを繰り返し説明しました。今回の中計リバイズでは、「サプライチェーンマネジメント改革」が最初のアジェンダになっていますが、全体最適の視点を持って協力してつないでいくことの重要性を執行責任者の皆さんが理解してくれた証しです。あとは、スピード感を意識して、行動していくことです。

―全体最適で言うとアセットライトの方針も明確化しました。

ROICマネジメントは言わば、預かったお金をいかに効率よく運用し、高い利回りを実現するかということです。その観点で考えると、収益や企業価値に貢献しない資産がある場合、全体のパフォーマンスは下がってみえるため、これを避けなければなりません。また、ワコールがやるべきは、インナーウェア市場ひいてはファッション業界で商品・サービスを提供し収益をあげ続けることであり、それに貢献しない資産は本来持っている必要はないのです
 経営の立て直しを行っていく上では、アセットライトの基本方針を明確にして推進し、そこで得られた資金を中計リバイズの担い手である従業員に投資する、もしくは株主に還元する、事業に投資するなど、活用していくことが必須事項だと考えました。

本文中画像日戸社外取締役03.jpg

―ワコールグループの構造改革が進んでいますが、取締役会はどのような様子ですか?

矢島社長、宮城副社長は、今のワコールグループには外部の知見が非常に大事であると考えておられ、どんな意見でも自由に発言してほしいと言われています。お二人にとっては、耳の痛い指摘や前例のない提案などもあり、厳しい話が続いていると思いますが、真摯に向き合われていることで、取締役会は一つひとつの議題を全員で深く議論できていると思います。取締役に社内・社外の距離を感じることはありません。
 そうした姿勢は、執行側の皆さんにもいい影響を与えていると感じています。取締役会での我々の意見や提案を前向きに捉え、参加者が一丸となってワコールグループの改革について意見を交わしていますし、社外取締役と執行側の議論や情報交換は取締役会以外でも活発に行われています。今後、両者が両輪としてさらにかみ合うことで、監視・監督をしながら執行の背中を押し、改革のスピードアップにつなげていきたいと思います。

―新たな経営体制のもと体質転換を進めるワコールグループのこれからをどうみていますか?

中期経営計画の見直しにあたり、取締役会では策定に関する基本的な考え方を相当議論しました。その結果、ワコールグループがやるべきことは妥協せずすべて入れていく、という結論に達し、できあがったのが中計リバイズです。特にサプライチェーンマネジメント改革やブランド戦略については、裏付けのあるプランになっています。もう少しスピードを早めたいと思っていますが、外部環境も不透明な状況ですので、この中計リバイズで掲げた数値を最低限のハードルとしてクリアしていきたいと思います。そこで、重要になってくるのが働く人たちのモチベーションです。従業員が同じ方向に向かい、会社として一体感を持って進んでいく必要がありますが、それは、働くすべての人たちが中計リバイズを自分ゴトとして自身の業務に落とし込み行動していけるかにかかっています。ただ、目標数値を示すだけではプレッシャーになるばかりで、心が動くはずはありません。従業員の皆さんが持つ「ワコールが大好き」という気持ちから生まれる力を会社の力にするためにも、経営陣には、従業員の皆さんと厳しいことや将来の夢や希望を語る機会をつくって欲しいと伝えています。長期にわたる業績低迷が続いていますので、経営陣と従業員の距離が離れてしまっていることもあると思いますが、相互理解を深めるためのコミュニケーションは時間やコストをかけてでも行わなければならないことです。
 今後、成果がでてくれば「VISION2030」で掲げる目標値や目指す姿の達成についても現実感や期待感を持てるようになり、モチベーションを保って業務に向き合うことができるはずです。そういう意味では、中計リバイズは、非常に重要な期間であると考えています。また、ROICマネジメントや資本効率の向上は、企業価値向上を目指すうえでの手段でしかありません。キャッシュを創出できる企業体へ早期に回復するとともに、生み出したキャッシュをステークホルダーへ適切に還元しつつ、成長投資に振り向けて次の成長につなげることは、ワコールグループの企業理念の実現につながっていきます。自身の知見を活かして継続的に強いインプットを行い、ワコールの成長と企業価値向上に資する様々なサポートを行ってまいります。

おわり