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経営

【前編】徹底した顧客起点に立ち返り お客さま一人ひとりをエンパワーメントしていきます

  • 川西 啓介Keisuke Kawanishi

    株式会社ワコール
    代表取締役 社長執行役員

中期経営計画の見直しについて

2023年4月の社長就任以降、「新生ワコール」のスタートに向けて社内外のメンバーとともに自社の点検を行い、経営戦略の見直し作業を進めてきました。そして、中期経営計画リバイズ(以下、中計リバイズ)の公表とともに、2024年3月期決算において約60億円の構造改革費用を計上することを決断いたしました。私の社長としての使命は、この決断を踏まえ、ワコールを高収益企業に変革させて行くこと以外にはないものと考えています。中計リバイズ期間では、厳しさを増す外部環境の中でも、ワコールが高い収益力を確保できる体質へ変革するため、強い覚悟を持ってビジネスモデルの変革を行っていく所存です。そして、成長戦略として掲げる「顧客戦略」と「ブランド戦略」「人材戦略」の強化を通して、顧客や市場への変化に迅速に対応できる「新生ワコール」へ進化させていきます。
 なお、業績計画ですが、構造改革に伴うブランドの選択と集中や赤字店舗の撤退の影響に加え、成長戦略の成果発現までに一定の時間がかかることを考慮し、2026年3月期の売上目標を940億円に下方修正しました。また、事業利益についても下方修正しましたが、コスト構造改革の効果により、減収の中でも一定の収益性を確保できる体質への変化を優先します。まずは、コミットした目標数値をやり切ることで、次期中計以降の成長につなげていきます。

企業変革を通じて、私たちが目指したい姿

これまでもワコールは業績回復に向けたさまざまな取り組みを行ってきていますが、残念ながら成果につなげることができていません。その背景にあるのは、お客さまの変化に正しく向き合ってこなかったこと、つまり顧客視点の欠如であると認識しています。自社の点検作業を通して、大変残念ながら、これまで自社の強みと考えていた「ものづくり」や「販売」などそれぞれの機能が弱くなっていることを確認しました。例えばブラジャーは、サイズやカラーが豊富であることから、SKU*が多くなる商品特性を有しています。在庫を最適化する中で、売上と利益を最大化する仕組みはワコールのビジネスモデルを支える強い管理基盤でしたが、各業務の効率化や分業などを進める中で、管理精度が低下しました。また、得意先の在庫の抑制方針が強まる中において、売れ筋商品の在庫管理や展開訴求について得意先と十分に共有できていないことも確認しています。これは、お客さまのニーズの多様化やトレンドの短期化に、当社のサプライチェーンマネジメント(以下、SCM)が対応できていないということに他なりません。お客さまや流通環境の変化に対して、これまでのサプライチェーンの仕組みを維持することにこだわった結果、各所で機能不全が見られ、長期の売上低迷と過剰な在庫の発生につながっています。

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今回の企業変革を通じて、私たちが目指したい姿は、「顧客起点」で考え、顧客からどう見えるかを想像し、行動できる会社・組織・従業員になるということです。「顧客起点」での商品やサービスの開発を行い、機会を逃すことなく提供すること。「顧客起点」でのブランドマネジメントやコミュニケーション施策を実行し、私たちの提供する価値を正しく理解し今回の企業変革を通じて、私たちが目指したい姿は、「顧客起点」で考え、顧客からどう見えるかを想像し、行動できる会社・組織・従業員になるということです。「顧客起点」での商品やサービスの開発を行い、機会を逃すことなく提供すること。「顧客起点」でのブランドマネジメントやコミュニケーション施策を実行し、私たちの提供する価値を正しく理解していただくこと。これらを実践できる企業となるべく、顧客や市場の変化に柔軟に対応できるSCM改革を実行するとともに、迅速な意思決定を伴って改善行動を実践できる組織、事業効率の高い組織へと進化させていきます。そして、顧客への提供価値を最大化するとともに、その対価として得たキャッシュを、人材投資や成長投資に振り向けることで、次の成長につなげるという一連のプロセスを再び機能させていきたいと考えています。
 幸いなことに、私たちには多くの顧客基盤があり、お客さまのニーズに対応できる「ものづくり」や「販売」の力を持ち合わせています。これらの力を「顧客起点」でアップデートすることで、再成長は可能だと考えています。また、当社の従業員は多様な価値観や個性を持ち合わせていますが、この多様性をうまく生かしきれていないと反省しています。縦割り組織の運営であることから、部分最適の考えが浸透しており、全社最適の判断・行動が弱いことも当社の課題です。従業員一人ひとりの成長を支援することで、この多様性を成長の原動力に変えていきたいと思います。

*SKU(ストックキーピングユニット):最小の品目数を数えるための単位

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どのようにビジネスモデル改革を進めるのか

ワコールをこうした方向に持っていくために、①どのようにビジネスモデル改革を進めるのか、②どんな価値を創造する企業に進化していくのか、そして、③目標を実現するための前向きな意識改革をどう進めていくか、の3点についてお話しいたします。
 前述のとおり、お客さまのニーズの多様化やトレンドの短期化に、当社のSCMが対応できていないということは解決すべき大きな課題と捉えており、14カ月かかっている「ものづくり」から「販売」までのリードタイム(LT)を短くして、トレンドにあった商品を早く開発できるようにしていくこと、そして、全体在庫を少なくしつつ、お客さまが求めている商品を最適に揃えるという取り組みを早急に進めていきます。このSCM改革は、コスト構造の最適化の側面もありますが、顧客ニーズに合う商品のスムーズな開発・展開や売れ筋商品の的確な追加生産、結果としての在庫抑制などは収益成長にダイレクトにつながる取り組みでもあるため「成長戦略」ともいえる施策です。デジタルも活用し、将来的には需要連動型のSCMを構築することで、顧客ニーズへの対応力を高めていく計画ですが、具体的な取り組みは3段階を想定しています。まず店頭商品構成の最適化、次に、需要状況に合わせた生産方式へのシフト、そして企画・開発LTの短縮化に取り組んでいきます。
 店頭商品構成の最適化に向けては、これまでの画一的な商品構成や新商品の納品スタイルを見直し、売れ筋を確実に店頭に届ける仕組みへの変革を進めます。すでに量販店数店舗を対象とした試験的な運用を開始していますが、売上改善の効果を確認しており、この結果も踏まえて2024年3月期は実証実験に協力いただいた得意先の他店舗での運用を開始するほか、他の得意先でも実証実験を開始します。対象店舗の範囲を早期に拡大することで、売上機会ロスの低減に努めてまいります。また需要連動型生産については、従来の一括生産の方式から、店頭の需要状況に合わせた生産方式に変更する取り組みで、売れ筋商品の充足率の改善につながると考えています。企画・開発LT短縮は、既存パターンの活用や企画開発会議等の業務プロセスの見直しにより、開発から納品までのLTを短縮する取り組みですが、顧客ニーズを捉えた商品の投入スピードを速めることで販売活動の改善につなげていく方針です。

後編につづく