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経営

【後編】徹底した顧客起点に立ち返り お客さま一人ひとりをエンパワーメントしていきます

(統合レポート2023より抜粋)

前編はコチラ
  • 川西 啓介Keisuke Kawanishi

    株式会社ワコール
    代表取締役 社長執行役員

どんな価値を創造する企業に進化していくのか

顧客から見て、付加価値のある商品は高く、そうでないものは見合う価格でないとお客さまに選んでいただくことはできません。なぜこの商品がこの価格なのか?を丁寧にコミュニケーションする必要があり、お客さまにその必然性をしっかりと示すことが大事と考えています。直近の業績では、高価格帯の商品の売れ行きが好調に推移しているのに対して、中間価格帯である4,000円~6,000円台の商品の売上が低迷しています。この理由のひとつに、商品のプライスとお客さまから求められる価値のクオリティーが合致していないことが挙げられます。SCMと同様に「ブランド戦略」や「顧客戦略」についても時代に適応するように変化をさせていくことが、中計リバイズのテーマとなります。
 今回、ブランドポートフォリオを策定する中で、既存ブランドの枠内では対応が足りないと判断したのが「ハイプレミアム」「アフォーダブル」「若年層」「シニア層」です。ここは今のブランドを当てはめた時に、市場機会はあるけれど、ワコールとして十分な提案ができていないと捉えています。当然セグメントによりニーズや価値観も違うため、利益構造も一律ではありません。そのセグメントで求められるものを精査し、全社でどのブランドにどんな役割を持たせていくのか、場合によっては今のブランドでは補えないので追加で配備を検討していく必要があると考えています。しっかりお客さまを見て判断していきます。インナーウェア以外の領域に関しては、3D計測サービスで得られたボディデータや、人間科学開発研究センターのこころとからだの研究を活用したパーソナライズサービス、CW-Xなどスポーツ事業の強化など「美・快適・健康」領域での事業拡大を目指します。
 「顧客戦略」の鍵は、デジタルの活用です。体型データやID-POS(顧客が商品を購入した記録データ)の有効活用はもちろんのこと、今後は当社の強みでありながら活用できていない「顧客の声」「ビューティーアドバイザー(BA)の接客知見」といったデータもデジタルを活用して分析し、顧客体験価値の向上につなげる考えです。さらに、3D計測サービスやアプリも併用し、リアルとオンラインで一貫した満足度の高い顧客体験の提供を行います。既に開始している、ビューティーアドバイザーがオンライン上で商品を紹介する商品レビューは非常に好調に推移しており、今後も多様化するお客さまの嗜好に合わせてコミュニケーションの精度を高め、当社の提供価値を適切に伝えていきます。なお、3D計測サービスは特に若い世代のお客さまとの出会いを創出できるという側面で大きな可能性を秘めています。2024年3月期に「SCANBE」という名称にリニューアルするとともにサービス内容の見直しを行っていますが、「5秒でサイズがわかる」というベネフィットだけではなく、お客さまそれぞれの最適解を探すお手伝いをするサービスとして進化を図ります。

川西社長本文中画像2.jpg

目標を実現するための前向きな意識改革をどう進めていくか

今回の中計リバイズの策定において、お客さまの価値観の多様化に応える企業へ進化しようと決意を新たにし、これからの当社の提供価値を「お客さまひとりひとりの自分らしさをエンパワーメントする」ことと定義しました。画一的な価値提供ではなく、多様性に対応する商品やサービスを提供し、さまざまな顧客に寄り添えることがワコールの強みだと認識しています。目標を達成するためには、チャレンジを繰り返し、PDCAサイクルを高速で回しながら変化対応力を高めるしかありません。これから従業員に強く期待することは、この変化対応力です。現状維持では相対的に沈んでしまうということを強く意識して、変化にチャレンジすることが必要です。徹底して「これまでのやり方」をすべて見直すつもりです。75年以上続くワコールには、製品の「品質」「機能」やこれまでに蓄積した「顧客情報」などの強みがあります。しかし、いつの間にか顧客視点を失ってしまったことで、長期にわたる低迷が続いています。簡単なことではありませんが、現状維持の風土を払拭しなければ、長期の低迷から脱することはできません。
 今回の中計リバイズでは、「顧客起点」で組織やオペレーションを再構築することで、再び成長に向けて舵を切りたいと考えています。社内のコミュニケーションを促し、多様なお客さまにスピード感を持って対応できる、組織づくりに邁進する所存です。前述のとおり、ブランドや接客サービスといった当社の潜在能力が低下しているわけではありません。また、中計リバイズ期間においては人的資本への投資を強化することで、従業員それぞれが持つ多様な価値観や個性を最大限に発揮できるよう支援していく考えです。厳しい環境での社長就任となりましたが、ワコールをより良くしようという思いを受け継ぎ、中計リバイズの達成に向けて邁進していきたいと考えています。また、これらの変革の進捗については、投資家の皆さまや従業員とも、しっかり共有してまいります。ステークホルダーの皆さまには、引き続きのご支援を賜りたく、心よりお願い申し上げます。

おわり