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経営

【前編】先送りせずやりきる覚悟を示した「中期経営計画リバイズ」に役員、従業員が一丸となって取り組み、 ワコールグループ再成長の礎を築いていきます

  • 矢島 昌明Masaaki Yajima

    (株)ワコールホールディングス
    代表取締役 社長執行役員

当社グループは、2024年3月期の最終損益を大幅に下方修正し、2期連続の赤字となる見通しを2023年11月9日に発表しました。あわせて、2022年4月に策定した中期経営計画を全面的に見直し、抜本的な構造改革を行っていくことを公表しています。2024年3月期の赤字見通しは、主要地域の売上低迷とともに国内事業の構造改革にかかる費用や米国事業の撤退による減損損失の計上によるものです。株主をはじめとするステークホルダーの皆さまに多大なるご心配をおかけすることを重大に受け止めております。
 今回、中期経営計画の見直しを行った背景には、事業環境や消費者ニーズの激変が存在します。2015年頃から国内事業の主力チャネルである百貨店や量販店の撤退や業態転換によって当社グループの業績は漸減傾向が続いていましたが、2019年の消費税増税や2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大と長期化によって売上はさらに低下し、収益性は急激に悪化しました。また、ポストコロナにおける人々の価値観の変化、予想を上回るインフレと急激な金利上昇、中国の成長率低下などによって、当社グループは未だに厳しい経営環境が続いています。今後ますます不確実性が高まる時代において、今当社のビジネスモデルを変えなければ未来はないと判断したことが、このたびの構造改革に至った背景です。
 私は、2023年6月に代表取締役社長執行役員に就任しました。打診を受けた際、会社の厳しい状況も私に期待されている役割も理解しており、前向きに受けられる環境ではありませんでしたが、会社を立て直すことこそが自身の責任の取り方であると考え、決断いたしました。そして改革の中で生じる痛みや軋轢を恐れず、問題を先送りすることなく、見直した内容が今回の中期経営計画(以下、中計リバイズ)です。計画の最終年度である2026年3月期に向けて、やり切る覚悟を持って構造改革を進めてまいります。

中計リバイズの策定プロセス

顧客起点でバリューチェーンを見直し、着実にキャッシュを創出する体質への転換を目指す

当社グループは、長期にわたり業績が低迷し、中期経営計画はもとより毎期の期初計画を達成できない状況が続き、 資本効率も低位にとどまっています。これまでも幾度となく 構造改革の旗を掲げてきましたが、徹底して実行できず、ス ピード感と実効性に欠けた結果、成果につなげることができませんでした。
 一番の問題は、お客さまの変化に対する対応の遅れです。当社グループはつけごこちや造形性を強みとして商品を展開していますが、それ以上に快適性を重視するお客さまが増えています。接客においては、お客さまの好みをお聞きすることから始まり、フィッティングまで30分ほど時間をいただきますが、この接客がタイムパフォーマンスを重視する方からは支持されにくくなっています。お客さまが、何を求めていて、何がベストかを考えなければならないのですが、これまでの強みや接客スタイルを重視しすぎたことで、変化への対応力が高まっていない状況です。また、課題を解決しようとするとさまざまな軋轢や問題が発生しますが、自分自身を含めて経営陣がそれらに向き合うことができず、問題を先送りしたことが長期の低迷につながったと反省しています。上層部が決断しない風土は、従業員たちにも影響し、自分の意見ではなく上司がどう考えているのか空気を読むようになったと感じています。向き合うべきはお客さまのニーズであるにも関わらず、いつの間にか社内目線があたりまえの企業文化が根づいていました。
 こうした意識とこれまでのやり方を踏襲して「ものづくり」 を一生懸命続けたとしても、厳しい現状は何ら変わることは ありません。加えて、外部環境は想定以上の速さで変化しています。重要なことはワコールの常識を疑い、顧客起点でバリューチェーンを見直していくことです。中計リバイズでは、過去の中計でも認識していた課題に改めて向かい合いました。掲げた施策をやり切ることで、着実にキャッシュを創出できる体質へ転換を図ります。

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社外取締役と濃密な議論を重ねて、中計リバイズを策定

当社グループの社外取締役には、経営者として豊富な知見と経験を有する者や投資・金融資本市場に関する知見・見識を有する者など、多様なスキルを持つメンバーが就任しています(取締役会構成:社内取締役2名、社外取締役5名)。中計リバイズの策定過程においては、社内・社外取締役で構成される「グループ戦略委員会」を設置し、事業戦略や成長投資、保有資産などの重要アジェンダについて、市場や投資家の視点、企業としての存在意義や事業実績など、あらゆる方向から議論を繰り返し、現状の戦略を抜本的に見直しました。また、重要施策として掲げているサプライチェーンマネジメント(以下、SCM)改革、コスト構造改革、成長戦略については関係部門の従業員が中心となって策定しましたが、専門の知見を有する社外取締役やコンサルティング会社にも参加いただき、さまざまな視点からアドバイスをいただいています。
 これまでの当社グループは、資本効率について事業部門まで徹底できていませんでした。「いかに少ない資本で多くの利益を出すか」という点に経営陣やマネジメント層の意識は本来向かうべきですが、想定以上の顧客や流通の変化の速さに対して、既存のSCMの仕組みを進化させてこなかったことが原因となり、在庫が膨れ上がる結果となりました。中計リバイズで掲げたSCM改革では、店頭商品構成の最適化や、需要に合わせた生産方式へのシフトによる在庫水準の抑制・最適化を進めるほか、生産のリードタイムの短縮化を実行します。これは資本効率の改善にも貢献できる施策と考えています。社外取締役の方々に参加いただき、深い議論を行ったことで、妥協のない経営計画が出来上がったと評価しています。

中計リバイズの具体的な施策

まずコスト構造改革を実施し、ブランド力・顧客ロイヤリティ・人材力を高めて成長軌道へ

当社グループは、2022年、経営理念を体系的にまとめました。70年を超える歴史の中で受け継いできた「社是」「目標」「経営の基本方針」を「創業の精神」と位置付けた上で、現代社会において当社グループが果たすべき社会的使命「ミッション」を新たに策定しました。「ミッション」を達成するため、2030年を目標に取り組むべき項目を整理したものが中長期経営戦略フレーム「VISION2030」であり、中期経営計画は「VISION2030」の一つ目のマイルストーンです。
 今回、策定した中計リバイズでは、業績的には一旦屈むことになりますが、コスト構造改革の実行、ブランド力・顧客ロイヤリティ・人材力の向上によって成長軌道を描く計画です。並行して、ROICマネジメントの導入によって経営管理基盤を強化し経営の実効性を高め、資本効率性を改善させていきます。
 私は、当社グループの強みを「ものづくりの力」と「これまで積み重ねてきた顧客との信頼関係」だと考えています。研究、企画、生産、販売といったバリューチェーンを自社で保有し、人間科学研究開発センターや3D計測サービスで蓄積した体型データとそれに基づいた高品質な商品を生み出す力が最大の競争優位です。ただ、その強みを時代に適合する形に進化させていかなければなりません。私たちが提供する価値は、いつの時代も変わらないのではなく、進化させた形でお客さまのもとに届ける。それがお客さまの満足につながり、ひいては従業員をはじめとするステークホルダーの皆さまも価値を享受できることになります。この継続が私たちの使命だと考えています。
 中計リバイズの大きな方針は、記載の4点となります。計画に則った各施策を着実に実行することで、収益性と資本効率の改善を図ってまいります。

中計リバイズの基本方針

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後編につづく