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経営

【後編】ワコールグループに必要なものは、エンゲージメントを向上させる人的資本への戦略的投資と企業風土改革

(統合レポート2024より抜粋)

ワコールグループは業績の長期低迷から脱却すべく、2023年11月に中期経営計画(以下、中計リバイズ)を発表し、収益力と資本効率の改善を図るとともにVISION2030達成に向けた成長を目指し、1年が経過しました。これまでの中計リバイズの実効性について当社社外取締役である山内千鶴氏と佐藤久恵氏の両名にその見解をいただきました。

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  • 佐藤 久恵Hisae Sato

    1985年株式会社北海道拓殖銀行に入行。
    資産運用コンサルティング会社、投資顧問会社を経て、2005年には日産自動車株式会社グローバルCIO(運用最高責任者)に就任するなど、長きに渡り資産運用業務関連に従事。
    2023年6月 当社社外取締役に就任。現在は、学校法人国際基督教大学評議員や公的年金・機関の外部委員会、有識者会議等の委員・構成員を務める。

  • 山内 千鶴Chizuru Yamauchi

    1975年日本生命保険相互会社に入社。
    1999年に総合職へコースを変更後、2009年輝き推進室長などを経て、2015年に執行役員CSR推進部長に就任。2019年には取締役常務執行役員として、同社初の女性取締役に就任。DE&Iや人材育成・人材開発などの豊富な知見を有す。
    2023年6月 当社社外取締役に就任。現在は日本生命保険相互会社 顧問を務める。

実効性のある中計リバイズに必要なこと

―今後の取締役会で議論すべきことは何だとお考えですか?

佐藤:中計リバイズを実行したその先のことを考えなければなりません。例えば、アセットライト化を推進して政策保有株式を削減すれば安定株主が減少します。多様な考えを持つ投資家が株主になる可能性があるわけですから、会社としては、長期の視点で経営を行うために、それを支えてくれる長期投資家をいかに増やしていくかということが必須であり、取締役会でも重要な論点の一つになります。またESGも投資家の関心が高いテーマです。特に環境対応など、個社では解決できない問題も多々あるため外部との協業も必要となる分野もあるのではないかと思います。ESGの取り組み範囲は広く、その成果発現には長い時間がかかるため、取締役会では、長期的な企業価値向上の観点から、ESGの施策にどのように優先順位をつけて取り組みを推進していくかを議論すべきですし、投資家とのコミュニケーションにも反映させる必要があります。

山内:私が、取締役に就任して最初に感じたことは毎年実施している従業員エンゲージメント調査についての課題でした。結果について取締役会への報告が十分にはされておらず、調査自体が形骸化しているのではないかと。この調査を自社の成長戦略の成果に紐づけるための人的資本への投資として位置づけ、エンゲージメントと業績の関係性にまで踏み込んだ分析を取締役会に報告してほしいと伝えています。経済が右肩上がりの時代と違って、いまは従業員がやりがいや成長を感じられる企業が選ばれる時代で、組織にはそうしたマネジメントが求められています。

佐藤:労働人口はどんどん減っていくので、人的資本戦略がこれ以上遅れをとらないよう経営トップが率先して手を打つべき段階だと思います。

山内:人材育成に関しても、全社的なリテラシー教育やキャリアの再構築を促し、それを支援する体制の構築とともに、従業員の成長を支援する会社であることを企業文化として根付かせることが重要です。社内では「DE&I」※の考え方について理解を深める必要があると考えています。「DE&I」は、一人ひとりに合わせたサポートをすることによって成長の機会が失われず、キャリアをどう築いていくかを自身で決断できることになります。管理職の方は部下に対して「4つのき」として「期待する」「機会を与える」「鍛える」「決めつけない」を意識し、向き合うことが求められます。特に「結婚しているから」や「子育て中だから」といった一方的な配慮は、実は成長の芽を摘むことになります。

佐藤:「DE&I」の実践は、企業価値の向上につながりますから、経営陣から従業員まで全社レベルでの理解と実践が必須となります。

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―女性管理職との情報交換会を実施されたと伺いました。

山内:3人いる社外女性役員と女性管理職の方々とで3回にわたり意見交換をしました。それぞれ業務における課題意識を持ち、改善に向けた努力を惜しまない姿勢や後輩たちがやりがいを持てる環境にしたいといった気持ちが伝わってきました。こうした能力とやる気のある女性が活躍することに期待し、支援できることは積極的にやっていきたいと思っています。

佐藤:私たちが応援できることがあれば何でも聞かせてほしいと思っており、こうした機会は1回限りではなく、継続的に積み重ねていく必要があります。業績回復の主役は現場の方たちであり、その意見を聞くことができる機会は極めて重要であり、有益な情報交換会になっていると感じています。

長期的な企業価値向上に向けて

―ワコールグループが今後、企業価値を高めていくためには何が最も必要だとお考えですか?

佐藤:冒頭でも話した「対話力」「人への投資」です。伝えたいことを一方的に伝えるのではない双方向のやりとりは、役員・従業員に限らず、お客さまと従業員、会社と投資家など、ステークホルダー全般が対象です。現状、現場のビューティーアドバイザー(BA)はお客さまとの対話が非常に良くできていると認識していますが、業績を回復するにはさらなる頑張りが必要です。いかに従業員のやる気を喚起するかを考えると、従業員エンゲージメントの向上や人材育成に行きつくことになります。女性に限らず人への投資が極めて重要です。

山内:私は、「社会課題解決」と「ワコールグループの経済的価値」の2つの視点で、強みを活かしたチャレンジを続けることだと考えます。優れたものには価値があります。ワコールグループには、60年にわたり蓄積した体形データがあり、それを生かせるフィールドはインナーウェアだけではありません。3Dボディ計測による骨格診断サービスやコンディショニングウェア、疲れにくい靴など多用な商品・サービスを開発してきたように、今後も強みを生かした開発を継続していくことです。それには、チャレンジすることを受け入れ支援する、部門間で連携や協力していくといった文化が根付く必要があります。

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―女性向けの商品・サービスが中核事業であるにも関わらず、女性役員はもとより、部長クラスの女性管理職比率も低い現状をどうお考えですか?

山内:ワコールグループに限らず、そもそも日本企業は女性従業員の能力開発を行ってこなかったため、管理職や役員となりうる女性層に厚みがない現状となっています。層としての底上げが必要なので、入社時から段階を経てポストにつながるといった道筋を立て、計画的に人材育成を図る必要があります。

佐藤:こういった将来への投資をどうやったら実現できるのかを考えると、やはり経営層の意識と決断でしかありません。他社の事例をみても強力なコミットメントとリーダーシップは欠かせません。

山内:経営陣による方向性の明示とそれを現実にする実務の両輪があってこそ実現できますね。

おわり