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サステナビリティ

ハンガーからハンガーへ。より地球環境に配慮した「循環型リサイクルハンガー」を2023年7月から導入

ワコールグループでは、「環境負荷を低減する事業活動の推進」をマテリアリティ(重要課題)に掲げ、
独自の環境活動目標「環境目標2030」を設定しています。
その目標の1つが、「環境配慮型素材の使用比率を50%まで高めること」であり、
製品の素材だけでなく、製品ラベルやハンガーなどについても環境配慮型素材への切り替えを検討しています。
2023年7月より、主にチェーンストアで使用しているプラスチックハンガーを、
より環境に配慮した「循環型リサイクルハンガー」へ切り替えます。
この取り組みを推進してきた、ワコールの技術・生産本部のメンバーと日本コパックの担当者様に話を聞きました。

  • 庄 和宏KAZUHIRO SHO

    2001年入社
    (株)ワコール
    技術・生産本部
    材料管理部 材料購買二課

  • 中谷 美結MIYU NAKATANI

    2021年入社
    (株)ワコール
    技術・生産本部
    材料管理部 材料購買二課

  • 関原 唯史TADASHI SEKIHARA

    日本コパック株式会社
    生産部


    『日本コパック株式会社』
    ハンガーを中心とした店舗備品を企画、製造、販売。1951年にプラスチックハンガーの製造を開始し、かねてよりリユース・リサイクル事業をスタート。業界に先駆けて、GMS、セレクトショップなどとプラスチックを廃棄させない取り組みを行っている。

年間約900万本のプラスチックハンガーをリサイクルしてきた実績

―プラスチックハンガーのリサイクルには、いつ頃から取り組んでいるのですか?

庄:ワコールはインナーウェアの業界団体である日本ボディファッション協会(以下、NBF)の会員企業として、20年以上にわたり、日本コパック様と協業して、主にチェーンストアで使用しているプラスチックハンガーを回収し、リサイクルする取り組みを行っていました。

―プラスチックハンガーの製造を手掛ける日本コパック様も、リユースやリサイクルなどにいち早く取り組んでこられました。

関原:日本コパックは、1951年にダンボールやパッケージからスタートして、プラスチックハンガーの製造も行うようになり、プラスチックハンガーのリユース、リサイクル事業には業界に先駆けて、かねてより取り組んできました。当時の社長が、廃棄されるプラスチックハンガーが山積みになっているのを見て、これではいけないと感じたことがきっかけです。庄さんがお話された通り、ワコールとは2000年からハンガーの回収・リサイクルの取り組みをスタートしています。

―プラスチックハンガーは、年間に何本、どんな方法でリサイクルされてきたのですか?

庄:プラスチックハンガーは、ワコールだけで年間約1,300万本を使用し、そのうち約70%を回収し、リサイクルしてきました。プラスチックハンガーは日本コパックのリフォーム工場に集めて分別・粉砕したのち、主に“マテリアルリサイクル”として黒色のプラスチックハンガーなど他のプラスチック製品にリサイクルされ、一部は“サーマルリサイクル”として燃料として利用されたりします。これは、ハンガーを別のものへとリサイクルする、いわゆる“一方通行のリサイクル”です。これを今後、ワコールで使ったハンガーを、再びワコールで使うハンガーへとリサイクルする“循環型リサイクル”へと取り組みを進化させます。

環境配慮型素材の使用比率50%を目指して

―「循環型リサイクルハンガー」に切り替えることになった背景は?

庄:今回導入する「循環型リサイクルハンガー」は、ハンガーの製造とリサイクルを行う日本コパックさまと共に、“循環型リサイクル”を目指して、2019年に開発に着手しました。ワコールでは「環境目標2030」で「環境配慮型素材の使用比率を50%まで高める」ことを掲げていますが、これは、生地やレースなどだけでなく、ラベルやハンガー等の包装材料も含む全ての素材に関する目標です。全体に占める割合は、圧倒的に製品本体の使用材料が大きいですが、ひとつひとつは小さくても、ハンガーのリサイクル手法を検討することには大きな意味があります。

中谷:チェーンストアでは主力ブランドである「Wacoal」「Wing」を展開していますが、多くの商品が、プラスチックハンガーが付いた状態で店頭に並んでいます。また、ハンガーは複数のブランドで使用していることもあり、取り組みの影響は大きいと思っています。また、2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されたことも、“循環型リサイクル”の取り組みを後押しする要因でした。

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関原:プラスチックハンガーをリサイクルするには、まずプラスチックを粉砕し、リサイクル原料を作らなくてはなりません。質の良いリサイクルには、異素材の混ざっていない純粋な素材にすることが大きなポイントとなりますが、そのためには、ハンガーに貼られているサイズ表記シールを取り除く必要があります。

―シールを1枚ずつ手作業で取り除くのですか?

関原:はい。1本1本のハンガーから手作業でシールを取り除いています。これは大変な作業ですが、やはり異素材が混ざっていると良質なリサイクル原料にはならないため、日本コパックとしても必要な作業と考えています。2019年にはワコールからの要望もあり、シールの材質は紙からポリプロピレンというプラスチック素材に変更しています。これもコストは高くなりますが、リサイクルしやすくするための動きの一つです。

リサイクル原料50%、 バージン原料50%を配合した乳白色の「循環型リサイクルハンガー」

―そして今回、“循環型リサイクル”が実現できたのですね。

関原:はい。不純物のない、単一素材のリサイクル原料にするため、ハンガーの製造工場でワコール専用のラインを作り、粉砕し、ペレット(粒状の、プラスチック成形原料)を作っています。それでもリサイクル原料である以上、少し色が濁ってしまいます。そこで、リサイクルハンガーに使うリサイクル原料は約50%程度にとどめ、残りはバージン原料(天然資源をもとにつくられる原料)を配合して、乳白色の「循環型リサイクルハンガー」を作りました。

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―「循環型リサイクルハンガー」の特徴を教えてください。

中谷:形は従来のハンガーと全く同じです。従来型は透明でしたが、先ほどお話したように色が乳白色となりました。また、バージン原料が入ったことで再生材の質を補うことができます。この7月から徐々に新しいハンガーへと切り替わっていきますが、店頭や輸送途上でのハンガー破損も少なくなると期待しています。

関原:50%のリサイクル原料と、50%のバージン原料。この比率も考えられたバランスです。プラスチックは、リサイクルするたびに劣化していきます。もっとリサイクル原料の比率を高めることもできますが、バージン原料を一定程度加えることで、何度かリサイクルを繰り返しても、劣化の少ないプラスチックハンガーを作ることができます。

庄:1,300万本が循環型リサイクルハンガーになったことによる一番のインパクトは、50%の比率でリサイクル原料を使うこと、つまり“石油由来のバージン原料を半分削減できる”ということです。これはコストと環境に大きく影響します。短期的に見れば、コストはアップしますが、長期的に見れば、リサイクル原料を使用しない場合、それだけ限りある石油資源を使うことになり、いずれ今以上にコストアップするでしょう。ですからこの取り組みを今から始めることにより、将来のコストアップを未然に抑えることに繋がると思います。
そして石油資源の使用を半分にするということは、CO2排出量の削減にもつながり、地球環境によい影響を与えていくことができます。

周囲を巻き込んでこの取り組みを拡大させたい

―今後の課題は?

庄:ますます拡大が見込まれるECサイトでの販売の対応が今後の課題です。製品は、ハンガーがついた状態で工場から倉庫へ移された後、チェーンストアなどの得意先へ出荷されたり、ECサイト経由でお客さまに届きます。店頭では、お客さまにご購入いただいた際にハンガーを外して回収することができますが、ECで購入いただいた商品は、現在はハンガー付きのままお客さまの手元へお届けしており、回収することができません。そうなるとリサイクルはできず、お客さまが家庭ゴミとして処分されることになります。この状況を変えるために、物流部門とも相談しながら、不要なものはお客さまの手元へ送らなくて済むような運用を考えていきたいと思っています。

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―周囲にはどのような影響を与えていきたいですか?

中谷:この取り組みは循環型のリサイクルハンガーを開発するだけでは完成しません。特に、回収という部分においては得意先売り場のご担当者さまを始めとして、社内でも販売・物流部門の方々の協力が不可欠です。限りある資源を活用し、環境負荷を低減する取り組みですが、実際に回収作業をする人たちからすると手間が増えてしまうことも事実です。ですから、「なぜ実施するのか」を社内外の一人ひとりに理解してもらい、「どうすればうまく運用できるか」をともに考え、取り組みの輪を広げていきたいです。

庄:7月からはNBFの中で、ワコールで使用するハンガーのみを循環型リサイクルハンガーへと切り替えますが、賛同いただける企業が増えれば規模が拡大します。将来的には、業界全体で取り組みが育ってほしいと思いますし、業界団体として協業する姿勢も大切だと考えています。

関原:限りある資源を最大限に有効活用するという意味で、1本でも多くのハンガーをスピーディに返却いただくよう協業先へ働きかけることも大切だと考えます。また、プラスチックの“リサイクルできる”という利点を活かして、廃棄物を削減し、ハンガー以外についても、プラスチックを循環させる仕組みを、取引先さまと共に広げていきたいですね。

庄:ワコールとしてはもちろん、インナーウェア業界全体に、「大量生産」「大量消費」から「資源循環型」のモノづくりへの移行を加速させる影響を与えていきたいです。

おわり