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経営

【前編】社外役員インタビュー 「VISION 2030」実現のためにワコールグループが成すべき変革

ワコールグループは今、大きな転換期を迎えています。新たな理念体系の構築、中長期ビジョンと中期経営計画の策定。
目指す姿の実現に向けて、ワコールグループが克服せねばならない課題、経営理念を実践していくためのポイント、
経営の実効性向上に向けて自身が果たすべき役割について、3人の社外役員に語っていただきました。

(統合レポート2022より抜粋)

中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」についてはコチラ
  • 岩井 恒彦Tsunehiko Iwai

    社外取締役

  • 黛 まどかMadoka Mayuzumi

    社外取締役

  • 島田 稔Minoru Shimada

    社外監査役

女性の役員登用は喫緊のテーマ

黛:私は自分自身の専門性や属性を踏まえ、文化・女性・消費者の3つの観点から、中長期的な企業価値向上に向けた意見を述べることを、自らの役割と捉えています。特にステークホルダーの大半を占める「女性」の視点を絶えず意識し、物事を会社の内側・外側から見ることで、社外取締役として適宜必要なブレーキを踏むようにしています。例えば、現在注力しているサービス「3D smart & try」の取り組みにしても、5秒間の3D計測でお客さまの150万点ものボディデータを取るうえで、万全なセキュリティ対策が求められます。あるいは、女性特有の健康問題や新型コロナウイルス感染症拡大下における女性の立場など、男性ではなかなか気づきにくい事柄を踏まえた問題提起をするように心掛けています。
また、そもそも女性用インナーウェアを製造する会社の最終的な意思決定を、商品を身に着けない人たちだけで正しくできるのだろうか、という疑問があります。私は現在、取締役会で唯一の女性役員ですが、本来ここにはもっと女性の社内役員がいるべきです。そのことは以前から申し上げてきました。

島田:こういう話を執行側にすると、「登用したいんだけど、あと3、4年かかる」という答えが返ってくるんです。でも、それは全然違う。女性の登用は今すぐ進めなければなりません。現に私が知っている範囲でも、社内には非常に優秀な女性がいます。もちろん、現場の能力と経営の能力は別ですが、それは男性も全く同じです。「ポジションが人を創る!」という言葉があるように、部長なら部長の立場を早期に与えることで、人は期待を超えて大きく成長していくのです。(株)ワコールでは、現在27%の女性管理職比率を30%以上に高める目標を掲げていますが、むしろ管理職の5割・役員の3割を女性にするくらいの意識が必要ではないかと考えています。

黛:社内のロールモデルを欠いた中で、女性の社内役員をどう育てていくかというのは、難しいテーマです。起用した女性役員がトークン(象徴)的な立場に置かれぬよう、思い切って最初から一定数の女性を中に入れる必要があると思います。併せて、欧州で行われているキャリアブレイクやサバティカル休暇といった、追加的な施策も導入していくべきです。世界120位前後と低迷する日本のジェンダーギャップを、むしろワコールが率先して解消していくくらいの意気込みや、メディアに報道されるくらいの先進的な取り組みが求められると思います。

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岩井:全く同感です。この問題については、取締役会で議論をより深めていく必要がありますね。

社外の論理vs.社内の論理

岩井:私は2018年6月の株主総会で、島田さんとともに選任されました。前職は化粧品会社で、ワコール同様に女性の美に貢献するものづくり企業です。そこで技術系の責任者を務めていたこともあり、私には、ものづくりの技術面や品質面、あるいはコンプライアンスに関する意見が求められていると理解しています。従って取締役会では、一切遠慮なく発言しています。取締役会とは本来、そうあるべきですし、またそういう自由な物言いが許容される企業風土がワコールにはあると思います。経営のアクセルとブレーキという両機能のうち、特に私が重視しているのは前者の役割です。前に進むためのアドバイスを提供し、執行側の背中を押すことを心掛けています。

島田:私は社外監査役の立場ながら、狭義の「監査役」からは離れた活動もしています。例えば、お二方がメンバーとなっている役員指名諮問委員会、役員報酬諮問委員会には、私も参加しています。オブザーバーという名目ですが、実際は皆さんと同じく、自分自身の率直な意見を述べています。私はもともと銀行業界出身ですが、その後何年も事業会社の社長を務めており、むしろ経営者の視点で経営を見るようにしています。「監査役」というより「社外」ということを、より強く意識しているわけですね。銀行業界もそうですが、同じ環境で長く過ごすと、どうしてもそこでの常識に染まってしまう。時代の流れとともに、「ワコールの常識は世間の非常識」という面が出てくる。それを気づかせてあげるのが、私たち「社外」役員の役目だと思います。

岩井:私や島田さんが入って、ワコールの取締役会はずいぶん賑やかになったという話を耳にします。とはいえ重要なのは、そうした議論が、日常の業務にどれだけ落とし込まれているかです。私たちが取締役会で何を語ろうと、現場が「社内の論理」に終始しているようでは意味がありませんからね。

島田:社内役員の方々には、もう一段の意識改革を求めたいと思います。取締役会での議論は活性化されたものの、こちらが問題提起した内容に対してもっと踏み込んでディベートする域には達していません。議題によっては丸く収めようとする傾向があるのは事実です。多様な立場から激論を交わすのが、取締役会の本来の姿でしょう。

岩井:私の前職の会社は数年前、外部から社長を迎えて大変貌を遂げました。今のワコールを見ていると、改革前夜の古巣に似た印象を受けるんです。ものづくりに絶対の自信を持っていて、こんなに良い商品を作っているのだから、売れないはずがないとどこかで思っている。でも、ブランドマーケティングなしに商品が売れる時代ではありません。いいものだから売れるというのは、前時代的だし、傲慢な考え方でしょう。これに関連して気になるのは、取締役会でものづくりに関する議論が少ない点です。例えば、新しいブランドを立ち上げるのであれば、そのブランドストーリーを巡って、取締役会で忌憚のない意見交換がなされるべきです。そうした議論を通じて、ブランドマーケティングもより充実したものになっていくのです。

黛:2021年秋冬シーズンに誕生したプレステージブランドの「Yue」についても、新ブランドが誕生した背景など取締役会で議論する機会がなかったことは残念でした。岩井さんのおっしゃるように、ワコールのブランドマーケティング力に課題があるからこそ、もっと議論すべきと思います。

中編に続く