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経営

【後編】社外役員インタビュー
「VISION 2030」実現のためにワコールグループが成すべき変革

ワコールグループは今、大きな転換期を迎えています。新たな理念体系の構築、中長期ビジョンと中期経営計画の策定。
目指す姿の実現に向けて、ワコールグループが克服せねばならない課題、経営理念を実践していくためのポイント、
経営の実効性向上に向けて自身が果たすべき役割について、3人の社外役員に語っていただきました。

(統合レポート2022より抜粋)

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  • 岩井 恒彦Tsunehiko Iwai

    社外取締役
  • 黛 まどかMadoka Mayuzumi

    社外取締役
  • 島田 稔Minoru Shimada

    社外監査役

組織を変える「身体性」と「ミドルアップダウン」

岩井:今回、新たに「ミッション」を定義するとともに、経営理念がアップデートされました。ミッション策定のプロセスには、私もアドバイザーとして関わり、いろいろと発言させてもらいました。ワコールは70年以上の歴史がある会社です。その創業以来の遺伝子を受け継ぎつつ、今の時代の生きた言葉でそれを再定義しなければなりません。そうした作業をしなければ、グループとして前に進めないからです。あとは、従業員一人ひとりがこのミッションの実現に向けて、いかに自分たちの行動を変革していくか。すべてはそれにかかっていると思います。
島田:こうしたメッセージはどうしても抽象的になりますので、その組織への定着は、併せて策定された「行動指針(アクション)」が鍵を握ります。役員にせよ部長クラスにせよ、この行動指針をもとに、「今しなければならないこと」を部下たちと繰り返し議論してほしい。「これが行動指針だぞ」で終わらせるのではなく、徹底的な議論と反復が必要です。そうした真のコミュニケーションの中から、変革の担い手となるリーダーが育ってくるはずです。
黛:いかに身体に染み込ませるか、浸透させるかは重要です。経営理念を軸に、とっさに状況を判断し、知らず知らずのうちにからだが動いている。そうした「身体性」の域まで、理念を浸透させなければなりません。このことはリスク管理にも関係してきます。一つひとつのリスクに個別のルールで対応していては、どこまでいってもきりがありません。つまり、ルールではなくプリンシプルをベースとしないと、リスクも減らないし、組織の改革も進まないのです。日本を代表する自動車メーカーにおける「型」の実践に注目した、有名な研究があるのですが、型こそ日本文化のエッセンスであり、その体得には反復あるのみです。京都のものづくり企業・ワコールに、その率先垂範を期待したいのです。
島田:今回、サステナビリティ委員会傘下に2つのプロジェクトが設置された意味は大きいと思います。まず、「経営理念浸透推進プロジェクト」。ここに参加しているミドルマネジメントのメンバーが、ミッションや行動指針を組織末端まで落とし込むと同時に、変革に向けてトップマネジメントを下から突き上げていく。こうした「ミドルアップダウン」型のマネジメントが根づけば、ワコールは変わっていくはずです。そしてもう一つが「女性のQOL向上プロジェクト」。両プロジェクトともそうですが、人選に際しては、自分から「やりたい」と手を挙げてくる人を積極的に取り込んでいくべきです。プロジェクトでは社会における女性の地位向上や役割の増加に関する課題解決を目指すわけですから、そこに参画すべきはそのような視点で物事を捉えることができる女性たちです。
岩井:大賛成です。なにしろ(株)ワコールの従業員の9割は女性ですから。
島田:あるドラマの二番煎じですが、「女性の管理職5割計画」などを掲げていいと思います。あるいは早急に女性役員3割を目指してもいいのではと考えます。
黛:CEOにせよその他の役員にせよ、「飛び級」があっていい。それくらいやらないと、社会に対し「変わった」ことを示せないと思います。

ワコールの企業価値向上に向けて

岩井:今の世の中を見ていると、株主資本主義が大きな転換点に差し掛かっていることを実感します。公益資本主義ないし「新しい資本主義」とは、従業員やお客さまを含むすべてのステークホルダーを重視する考え方です。ワコールの従業員の皆さんには、どうか主体的に「この会社をどう変えていくか」を考えてほしい。それこそが公益資本主義の本質なのです。また、株主還元も大切ですが、基本的には、成長投資によって企業価値・株主価値を高めていくのが、財務戦略のあるべき姿です。2019年のIntimates Online, Inc.買収のような積極的チャレンジは、今後ともぜひ応援していきたいと考えています。
黛:ワコールの企業価値向上に欠かせないのは、社内外の「土づくり」だと思います。社内に関しては、先ほど述べたように、プリンシプルベースの行動や、取締役会の多様性、女性が活躍しやすい組織風土。また、無意識だからこそ警戒すべきアンコンシャス・バイアスの打破―世間一般のアンケート調査を見る限り、ワコールにそうしたバイアスがないとは言い切れません。それから失敗を隠さない・繰り返さない文化。こうした土づくりを今後とも徹底してほしいと思います。一方、社外における土づくりとは、新たな文化の創出です。例えば、フェムケア事業が成功するには、まず世の中でフェムケアという概念が広く認知され、商品が当たり前に使われることが必要です。フランスはそうした風土がありますが、日本にはありませんよね。もう一つ、日本に足りないのはマダム文化です。フランスには、歳を重ねた女性を素敵だと思う文化があります。他方、日本はやたらと年齢を気にする傾向がまだあるように思います。そのような風潮の中で、女性の多くがある年頃を過ぎるといきなり「おばさん」と呼ばれるようになります。素敵なマダムの文化が醸成されれば、高齢女性ももっとおしゃれを楽しみ、下着にも気を遣うようになるでしょう。そのためには社会全体の価値観の変革も必要です。かつてこの国には、「衣服で女性の肉体を変化させる」という発想が存在しませんでした。創業者の塚本幸一さんは、そこに西洋的な下着を導入し、日本の服飾文化に大革命を起こしました。それに匹敵するくらいの新しい文化の創出を、ワコールに期待しています。
島田:ミッションやビジョン、新組織といった器に魂を入れていくのは、経営陣の役目です。日々のコミュニケーションを通じて、組織の末端まで変革の意識を浸透させるためには、社内役員の意識改革が大前提となります。それからもう一つは、経営資源としての「人財」の活用。繰り返しになりますが、女性管理職比率の向上やミドルマネジメント層の早期登用が必要です。地道に一つひとつ実績を積み上げていくこと。そうした取り組みこそが、投資家をはじめとしたステークホルダーからの信頼を集め、企業価値を中長期的に向上させていくでしょう。新生ワコールの実現に向けて、私たちも社外役員として力を尽くしていきたいと思います。