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経営

【中編】社外役員インタビュー
「VISION 2030」実現のためにワコールグループが成すべき変革

ワコールグループは今、大きな転換期を迎えています。新たな理念体系の構築、中長期ビジョンと中期経営計画の策定。
目指す姿の実現に向けて、ワコールグループが克服せねばならない課題、経営理念を実践していくためのポイント、
経営の実効性向上に向けて自身が果たすべき役割について、3人の社外役員に語っていただきました。

(統合レポート2022より抜粋)

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  • 岩井 恒彦Tsunehiko Iwai

    社外取締役
  • 黛 まどかMadoka Mayuzumi

    社外取締役
  • 島田 稔Minoru Shimada

    社外監査役

山は動くか―変革の胎動

岩井:ワコールの現状は、数字に如実に表れています。欧米は成長しているものの、日本と中国は苦戦しています。中国は、ロックダウンなど一時的な要因も関係していると見ていますが、それはともかく、問題は日本です。この指摘をすると、「国内は人口減少に伴う需要減も背景にあるため」という話になるけれど、それは違います。同じ国内で事業環境が同じにもかかわらず、(株)ワコールは2期連続の営業損失、それに対して(株)ピーチ・ジョン(PJ)は大きな営業利益を叩き出しているのです。PJは垂直統合型ではなく、いわゆるファブレス型のビジネスモデルを採用する企業です。ものづくりを外部に委ねる代わりに、企画やマーケティング、広告宣伝といったアイデアの部分で勝負する。その見事な成功を分析すると、ブランドマーケティングの重要性がよくわかります。PJというお手本を間近に見ながら、(株)ワコールのマーケティングの変革が進まないことは残念です。また、ワコールの品質管理のあり方にも新たな発想が必要でしょう。100%の完璧を求める仕組みを守ることは立派ですが、そこに余計なコストがかかっているのではないかという視点で検証することが必要です。合格品質水準(AQL)の柔軟な運用も含め、時代にあった品質管理体制を再構築する時期ではないかと思います。
黛:中長期的な課題として、2つのポイントを指摘したいと思います。第一に、からだに一番近い商品を扱う企業として、人間の「身体性」への視点を大切にしてほしい、ということです。現在はデジタル時代で、メタバースなどバーチャルな世界観が脚光を浴びていますが、一方で生身の体験やリアリティの持つ価値は決してなくならないし、むしろ、そうしたものの重要性が逆説的に浮かび上がってくる。デジタルとリアルの融合という言い方もできるでしょう。そうした面からも、人間科学研究開発センターが他社と協働で進めている体軸に着目した研究には大きな期待を寄せています。第二にESG、特に社会・環境問題への取り組みです。エシカル消費やフェアトレード、あるいはオーガニック、地産地消への取り組みをもっと加速すべきですし、やっていることを積極的に外に発信していただきたい。ワコールでは、委託先工場の労働環境をともに改善するCSR調達活動に力を入れており、昨年は海外主要会社の委託先工場リストも公開しました。また、トレーサビリティに配慮した調達を推進しています。しかし、世間ではそのことをほとんど知られていません。これは、コミュニケーションが苦手という、ワコールのもう一つの問題にもつながってきますね。
島田:私が取締役会等の場で提言してきたことは、主に3つです。第一に、投資家の納得・期待が得られる、具体的な経営指標を打ち出すこと。第二に、損失部門のスクラップ・アンド・ビルドを進め、ヒト・モノ・カネを最大限に活用する成長戦略を示すこと。そして第三に、経営体制の見直しです。ここには経営責任の明確化、ホールディングスを軸としたグローバル経営の強化、また女性役員の登用なども含まれます。また、ガバナンスの実効性をより高めるべく適格な社外役員及び社内役員を登用していくことが肝要です。こうした指摘は、今回まとめられた「VISION 2030」にもかなり反映されています。グローバル本部のホールディングス移管に加え、サステナビリティ委員会の発足、「役員・従業員の行動指針(以下、行動指針)」の策定も評価したい。問題は掲げることにとどまらず、これからこの器にいかに魂を入れていくかです。米国の女性経営者カーリー・フィオリーナが“Preserve the Best, Re-Invent the Rest”という名言を述べています。最良の伝統は保ちつつ、時代にそぐわないものは大胆に作り替えていこう、ということです。その点について、ワコールの役員・従業員は危機意識が足りないのではないかと危惧しています。高水準の株主資本比率に安住し、売上高は長らく2,000億円前後をキープしたまま。このような低成長は上場企業として許されないし、これからの時代、前例踏襲・現状肯定の考え方では確実に右肩下がりが待っています。創業者の塚本幸一さんが掲げた「世界のワコールを目指す」を実践するうえ上でも、本質的な自己変革が必要です。経営陣にそうした自覚を促すことは、私たち社外役員の務めです。しかし、変革の意識を組織の末端まで浸透させ、グループ2万人の従業員が自分事として捉えるようにすることは、社内の人たちにしかできません。それを着実に実践し、進捗状況を私たちに報告してほしいと思います。
岩井:3年前、前中期経営計画の策定と同時に、2028年3月期に向けた「売上高3,000億円、営業利益率・ROE10%超」という目標が掲げられましたが、そこには「ビジョン」という言葉は一切使われず、また具体的なプロセスも描かれていませんでした。「これでは全然伝わらない」と私はずっと言ってきたので、今回の「VISION 2030」には一定の評価をしています。また、先ほど島田さんがおっしゃった 「責任の明確化」に関連して、安原社長以下、3名の取締役(伊東副社長・宮城副社長・矢島取締役)の責任範囲がはっきり示されたことには大きな意味があると思います。また、CEOやCFOという名称を打ち出したのも、世界のワコールに向けた第一歩でしょう。この3人がぜひ切磋琢磨し、ワコールグループを引っ張っていってほしいと思います。
島田:私の古巣の銀行は、非常に保守的な人事をするところですが、今回の頭取人事では一昔前なら考えられない大抜擢を断行し話題を呼びました。銀行業界もそれだけ崖っぷちに立たされているということです。そうした危機意識をトップマネジメントの方々に共有していただき、女性や中堅の役員登用を進めてほしいです。
黛:顧問時代から8年間ワコールを見てきましたが、女性取締役がずっと私一人ということにも表れているように、率直に言って保守的だなという印象です。それは必ずしも悪い面ばかりではありませんが、コーポレートガバナンス・コードが導入・改訂され、岩井さん、島田さんも参加され、取締役会の議論が活発になってきています。いよいよワコールが変わり始めるという予感・胎動を感じていますし、また変化を起こさねばならない時期にきていると思います。