【前編】デジタルの力で人を活かし、顧客体験価値を進化させる
デジタル技術を活用して顧客に新しいサービスを提供してきたイノベーション戦略室。
前編では、どのような視点からサービスを生み出してきたのか、
篠塚厚子室長と多様な背景を持つメンバーが語りました。
(統合レポート2022より抜粋)
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篠塚 厚子Atsuko Shinoduka
2005年入社
(株)ワコールホールディングス
執行役員
グループDXマーケティング担当
(株)ワコール 執行役員
イノベーション戦略室 室長 -
高山 達Tatsushi Takayama
2010年入社
(株)ワコール
イノベーション戦略室
事業推進担当課長 -
南 智沙Chisa Minami
2010年入社
(株)ワコール
イノベーション戦略室
事業推進担当 -
宮下 聖子Seiko Miyashita
2003年入社
(株)ワコール
イノベーション戦略室
事業推進担当
お客さまに提供できる価値を現代版にアップデートする
ワコールのデジタル変革には、どのような課題があると認識していましたか。
篠塚:デジタルデバイスが普及し、お客さまの価値観が大きく変化する中で、これまでの成功体験をベースに培ってきたビジネスモデルが、現在のお客さまの行動に適合しなくなってきていることが課題としてありました。代表的な課題としては、チャネルと展開ブランドの縛りを前提とした事業構造が挙げられます。これは百貨店、これは量販店、この商材はこの事業部、といった縦割りの発想が、すべての根底にありました。お客さまが情報を自由に入手できるようになり、価格が高いものは百貨店、安いものは量販店という時代ではなくなってきているにもかかわらず、社内の固定観念としてどうしてもチャネルを基軸とした発想が染み付いていました。
そういった状況を受けて取り組んだデジタル変革とは?
篠塚:ワコールがCX戦略(旧オムニチャネル戦略)をスタートしたのは2016年、翌2017年に部門化し、チャネルの垣根を越えてお客さまと直接的につながることで、お客さまの望む方法で商品やサービスを提供していこうと取り組みを始めました。ワコールが強みとしてきた対面ベースのお客さまとのつながりを現代版にアップデートしていく試みです。顧客カルテの電子化、チャネル別で分断されていた顧客データの一元化などを行ってきましたが、特に注目されたのが「3D smart & try」でした。これまでビューティーアドバイザー(以下、BA)が手で行っていたお客さまの採寸をデジタル化したもので、ストレスフリーな計測体験を実現しました。さらに「3D smart & try」を用いたカウンセリングの進化版として生まれたのが「Ava.COUNSELINGパルレ」です。非接触で計測ができるのならば、BAと直接対面しなくてもからだの相談ができるんじゃないかというアイデアから誕生しました。これらの取り組みの際にはお客さまの選択肢を増やすことを意識しました。接客を受けたい方もいらっしゃれば、気軽に買いたい方もいる。多様性を持ったお客さまや、さまざまなシチュエーションに対して、選択肢を用意することが大事だと思ったのです。
「3D smart & try」
アバターを活用した接客システム「Ava.COUNSグ)パルレ」
消費者の求めるモノやサービスを、どのように捉えていたのでしょうか。
篠塚:2つのキーワードを想定しました。1つは「パーソナライズ」。現場の視点で消費者の変化を考えてみると、お客さまはパーソナライズなモノとサービスを求めていらっしゃると感じます。みんなにとって良いものではなくて、自分自身にとって良いもの、自分に合うことを重視しています。そしてもう1つがさまざまな意味での「透明性」という観点です。お客さまへの説明という点で考えると、情報が簡単に手に入る時代だからこそ、「なぜそうなのか」を、根拠を持って説明できることが大事だと考えました。「自分に合う」ということを説明する時に、「なぜならば」をどこまでクリアに示せるかが大切で、私たちは「3D smart & try」で得たボディデータを使ってコミュニケーションができるようになります。もちろん通常の接客においてもBAにご相談いただければ、お客さまに適した商品を提案しますが、消費者がたくさんの情報を入手できればできるほど、データに基づくコミュニケーションの方がより納得度が高まると思います。
多様な背景を持つ人材だからこそ答えのない問題に深く向き合える
このイノベーション戦略室は、BA経験者を含む多様なメンバーが集まっていますね。
南:私は、2017年に次世代ショッププロジェクトに参加し、「3D smart & try」の開発に携わりました。その後、イノベーション戦略室には2020年9月に着任しました。その前は店頭でBAとして3年、BA教育担当として7年、計10年近く販売業務に携わってきましたが、販売職として今後のキャリア形成に悩んでいた際にプロジェクトのことを耳にしたので、やりたいと自ら手を挙げました。
高山:私も南さんと同じタイミングで、公募制度を使って異動しました。入社以来10年ほど、社内SEとしてIT統括部で、工場、企画設計、生産材料、販売物流、また社内のサーバーネットワークなどインフラに関わる仕事を経験してきました。自分のスキルセットや今後のキャリアを見つめ直した時に、ステップアップするなら今だなと思いました。
宮下:私も店頭で17年ほど販売を経験した後、公募制度を活用して異動しました。これまで培ってきた自分の販売スキルを役立てたいとチャレンジしたのですが、異動当初は「場違いなところにきてしまった」と正直思いました(笑)。そんな時に篠塚さんに、販売経験の強みを活かせばいいと言われ、お客さまと近くで接してきた視点が私の強みだと改めて認識しました。
篠塚:お客さまにとって良いサービスを作ろうと考えたら、多様な人が集まった、それが今のチームです。私たちは正解がないものを作らないといけません。そんな状況で、さまざまなバックボーンを持つ人がいることは、課題に対して多様なアプローチが可能になります。例えば、このUIデザインはどうあるべきか、このサービス設計はどうあるべきかを議論する時、お客さまの快適性、操作性など見方によっていろいろなポイントがある中で、何が重要かをより深く考えられます。
高山:メンバーの経歴に違いがあるからこそ、それぞれが重視しているポイントが異なります。私はシステムがどう動いて、使用する時にはどう見えるのかなど、エンジニア視点が多くなりますが、南さんと宮下さんはBAの経験を活かし、お客さまがどう感じるか、サービスを使ってBAがどのように接客するかということを考えています。そういう視点の違いを議論して、より良いものが作られている感覚はとてもあります。
宮下:私にはBAとして現場に携わってきた強みがあります。でもこの部門にきて、システムやコンテンツについて勉強してみると、システムがこうだからサービスをリリースする時にはBAにはこう伝えよう、お客さまに伝えるにはどうしたらいいだろうと考えるようになりました。以前とは思考回路が変わったような気がしています。
南:私は篠塚さんがBAの意見を尊重してくれることに驚きましたし、「3D smart & try」 の開発を通じて、どのようなサービスもお客さま視点が重要なんだと実感しました。当たり前の感覚ではありますが、社内にばかりいるとつい抜け落ちてしまうこともあります。