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特集

特集2013

競争優位をもたらす「見えざる資産」を語る

世界知的資産イニシアティブ(WICI:The World Intellectual Capital Initiative)
会長を務める住田孝之氏と、当社塚本代表取締役社長との対談を実施し、
知的資産経営の観点から、ワコールグループの価値創造をテーマに
語っていただきました。

ワコールグループの価値創造

花堂氏 はじめにWICIについて説明させていただきます。WICIは、知的資産経営の実現に、2007年から日・欧・米の3極を軸にグローバルに取り組んでいます。知的資産経営とは、一次的には、「企業が、自らに固有で、強みの源泉となる知的資産(人的資産、組織資産、関係資産をはじめ、企業に利用可能な無形の資源)を活用して、有形資源と適切に組み合わせて最も効率的に価値の創造に専念する経営」です。
住田氏につきましては、日本経済が金融資本主義へと舵を切り始めるなか、経済産業省が取り組んだ「ものづくりこそ社会を支える屋台骨」であり、それは「見えざる経営資源である知的資産の働きが鍵」になっていることを見抜き、産業構造審議会 経営・知的資産小委員会「中間報告」及び「知的資産経営の開示ガイドライン」を2005年にまとめました。その後、経済産業省の本務に勤しみつつもWICIの会長を引き受け、知的資産経営の世界的な枠組み設定に努めてきました。「統合報告」のグローバル・フレームワークの創設を目指す「国際統合報告評議会(IIRC International Integrated Reporting Council)」の活動にもWICIの会長として大いに貢献しています。またWICIとIIRCについては協力団体として、企業が価値創造する活動の真髄を一つのストーリーとして表現し、その要因を表わすKPI(Key Performance Indicator)とともにステークホルダーにわかりやすく伝え、適切なフィードバックを通じて企業の価値創造に役立てる「統合報告」の枠組みについて、協働することになりました。
この対談では、ワコールという「女性共感企業」を支えている大切な価値観がどのように形成されてきたのか、顧客信頼の基盤になっている高品質経営をどのように維持・管理しているのか、独自の研究成果が生かされた商品展開のあり方、国内事業の強みをいかにグローバル展開に反映させるのかなど、知的資産経営の視点からワコールの企業活動の実相を、お二人に自由にお話ししていただきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。

花堂氏

品質に対する追求がお客さまに定着し、ワコール商品への信頼を高めた

住田会長(以下、住田) 日本企業には、中長期的な価値を大事にする経営、または企業を支える日本特有の見えざる資産を大事にする経営の考え方があります。私は、経済産業省に在籍している時から、そういった日本企業が持つ独自の経営観を世界に向けて伝えていきたいと考えていました。そのために効果的な形で世界へと発信していく仕組みづくりや、しかも発信するだけでなく世界にそれが受け止められるような枠組みをつくることが、私が最も取り組みたいことなのです。
ワコールグループには、そういった中長期的な価値を大事にするという軸が非常にしっかりしており、研究開発力や品質など強みの軸が明確な企業だという印象を持っています。

塚本社長(以下、塚本) ワコール創業の頃は、当時の女性販売員やデザイナー、縫製の方たちが海外の製品を分解し、「こういう形になっているのか」といった分析から、海外製品をお手本に実際に作成し、改善すべきことを議論し始めたことが、品質に対する出発点です。そこから一定量の生産が可能な規模になってから、品質についての本格的な取り組みが始まりました。
日本には、モノを大事にする文化があり、その頃から、商品デザインよりも洗濯検査や引っ張り検査など商品の丈夫さに関する品質を大事にしようと考えていました。そういった品質部分で、お客さまから信頼され、使い続けていただくことで私たちの商品へのファンを増やしていく、という思いが品質向上につながりました。その思いを持ち続けてきたことで、今でもお客さまから「ワコールは高いけれど、長持ちするから結果的には安い」と言っていただけているのです。若いお客さまも含めて、全般的に品質の良さは認知していただいており、長い時間がかかりましたが「ワコール=高品質」というイメージの定着に成功しています。

ワコールの人間科学研究が独自の知的資産であり、競争力の原点

住田 ワコールが築き上げてきた品質は、素材を研究するのと同時に、人間のからだも合わせて研究してきたことが非常に大きいですね。同業他社との差別化という点では、ワコール人間科学研究所(以下、人科研)の存在も非常に大きいですが、どのような位置づけとして捉えているのでしょうか。

塚本 今になって考えると、本当に大きな優位性だと思います。50年近くにわたって長くデータを収集し続けていますが、現代女性の体形は創業当時と比べると、身長や足の長さ、バストとヒップのバランスもすべてが変化しています。どちらかと言えば、現在の日本女性は欧米人に近づいています。当然そうした日本女性の体型変化に伴って、私たちワコールの商品もニーズの変化に対応すべく、進化してきました。蓄積し続けてきたデータ収集があればこその対応力であり、ワコールは日本女性、あるいは日本女性に近い東南アジア女性向けの商品については、リーダーでなければならないと考えています。

住田 2013年4月からの新しい中期経営計画では、どういったゴールを目指すのでしょうか。品質などのワコールの強みをどういった形で生かしていこうとお考えですか。

塚本 基本的には、現状の延長線だと考えています。ただし、会社がいつまでも現状維持のままでは、いずれは衰退してしまうので、時代の要望に応える変化は必要です。例えば、国内市場では現状の商品ラインアップ以外に、新しい価値を持つ商品を生み出さなければなりません。
その切り札ともいえるのが、人科研です。自然な胸の形に見せるためのブラジャーのパターン研究からデザインに至るまで、どこを補整し、どういった形にすべきかなど、人科研は女性に美しくなって貰うためのさまざまな研究を行い、成果を上げてきました。
先ほども申し上げたように、以前の人科研は、材料検査を主体にインナーウェアの人体に対する着圧に問題はないか、といったことを検査する組織でした。そうした目的から、50年近くにわたって毎年データを計測し続け、中でも20歳から60歳までのデータを毎年採り続けている同一人物の方が200­­人もいます。そのデータをベースにすることで、女性の体形変化に対する理解が深まったのです。
これまでの販売手法は、毎年の企画商品のキャンペーンを実施し、お客さまがその商品を気に入ってくだされば大きく売れますし、気に入っていただけなければ売れないという状況でした。最近では、人科研の研究成果を生かし、からだにフィットしたブラジャーを着用することが体型変化のためにも大事だとご提案しています。今や人科研は、自らが研究成果を発信する能動的な組織へと変化し、ワコールグループの販売に大きく貢献するようになったのです。ですから店頭の販売員も、販売の仕方が変わりました。常に数多くのブラジャーが作られる中で、人間科学の観点から個々のお客さまの体型にフィットしている商品を、適切にご提案する必要があります。今や販売員も研究成果を日々の接客に生かす勉強をしなければならないのです。

現地の価値観を受け入れながら、ワコールの経営理念を根づかせるグローバル展開

住田 これから日本市場は成熟化が進み、縮小傾向にありますので、海外展開が企業成長には不可欠ではないでしょうか。

塚本 その通りだと思います。当社は、国内同業他社と比べて、いち早くグローバル展開を開始しました。創業者である塚本幸一が、社是として「世界のワコールを目指す」を掲げたのは、まだ社員数が10人程度の1950年を迎えた頃でした。会社の規模がまだまだ小さい時代に「十年一節50­年計画」を打ち立てたのです。この計画は、最初の10­年で国内市場の開拓、次の10­年で国内市場の確立、次の10年で海外市場の開拓、次の10年で海外市場の確立、最後の10­年に世界企業の実現、という50­年にわたる長期的な構想です。実際に海外市場は、創業から20年目を過ぎた1970­年に韓国へと進出したのを皮切りに、タイ、台湾と続けざまに合弁会社を設立しました。ですから、少なくとも韓国、タイ、台湾は進出から今年で43年目ということになります。

住田 私もヨーロッパに住んだことで、価値観の違いを痛感したのですが、顧客第一主義の日本やアジアの企業と違って、ヨーロッパの企業は完全にサプライヤー主導の経済です。そういった中で、ヨーロッパ市場では販売手法も変える必要があると思いますが、これからのグローバル展開を考えた場合に、どこに力点を置いていくことになるのでしょうか。

塚本 ワコールの強みの一つにコンサルティング販売があります。アメリカの売場でも、日本と同様に販売員を置いていますが、そもそも私たちが販売員を置くきっかけとなったのは、欧米で学んだ手法にならってのことです。創業者が初めて欧米へ視察に行った時に、百貨店に行けば、アメリカでもヨーロッパでも、販売員が必ずからだのサイズを測ってからでなければ売ってくれなかったそうです。そこに価値を見いだした私たちは欧米の手法を取り入れ、守り続けているのです。ところがワコールがアメリカに進出し始めた頃には、アメリカでそういった手法を取る企業は消えてしまいました。結果的に、私たちが元々は欧米から学んだ販売方法を、海外の売場に再度持ち込むことになりました。海外のお客さまには、逆にそれが新鮮だったようです。
私は、こうしたコンサルティング販売や品質などワコールとして守るべき強みは、しっかりと守りながら、現地に合わせるべき部分は合わせるという姿勢が大事だと思っています。品質がある程度の水準に達するまでは、日本から技術支援の人材を送り込みますが、品質が向上し、順調な販売活動が推進できれば、基本的に現地の判断に任せています。ワコールとしての個性を根づかせながら、現地を理解し、現地従業員を中心とした活動に力点を置くことが大切です。

住田 現地の人々を中心に事業を拡大していく場合でも、ヨーロッパでは時間がかかり、大変な忍耐力が必要です。しかも、ヨーロッパというのは一つではなく、イギリスと大陸各国では考え方や嗜好がまったく違います。私見ですがイギリス人は比較的新しいものに対する受容力がありますが、大陸の人々は保守的な傾向が見られます。そういった違いの部分は、現地の理解が深いワコールイヴィデンと組みながら攻めていくのが効果的ではないでしょうか。ワコールイヴィデンの手法を大陸各国で活用すると非常に良いと思います。ワコールグループには、そういった良い力がありますので、ぜひとも効果的な戦略を持って狙いを定めていってもらいたいと思います。

ワコールならではの身の丈に応じた活動で世の女性に貢献

住田 CSR活動に対して欧米では非常に高い関心があり、日本企業の多くもCSR報告書を作成し始めています。ただ、これらのCSR報告書は、どうしても総花的な体裁になる企業が多いような印象があります。ワコールのCSRは、良い品質の商品を販売すること自体が社会に対する貢献となりますし、人間科学研究を基にしてからだに合った商品を開発すること自体も同様です。ワコールらしい考え方が表現されたCSRを強調していただくのが最も良いと思います。CSRのさまざまな活動のなかでも、優先的に考えている得意な分野があるはずですし、乳がんに関連した活動などワコールの強みが最も生かせる社会貢献を、強調するようなメリハリのある発信をしてもらいたいと思います。

塚本 私たちが心がけているのは、身の丈に応じて活動するということです。また、社会貢献活動を必要以上に広告やマーケティング、あるいはPRに活用する必要はないと思っています。私たちはインナーウェアを開発し続けていくことが一つの文化でもあると思っているからです。私たちは創業以来、女性とともに歩んできましたので、女性の病気としての乳がん撲滅に向けたお手伝いをすることは当然の義務だと考えています。だからこそ身の丈以上の広告とPRは、結果的にご期待に添えない場合、多くの女性にご迷惑をおかけすることになりかねません。
ご存知のように、私たちは「女性共感企業」を宣言しています。お客さまと日々対面している私たちの販売員は、お客さま一人ひとりに最善を尽くし、誠心誠意応える「個客専心」を心がけています。その心がけは、人科研の研究成果、顧客ニーズを捉える商品開発、高品質を実現する生産技術にも支えられて、女性からの共感を得ています。ワコールグループ全体を支える従業員は、本当にお客さまのことを一生懸命考えてくれています。そういう意味では、人が財産になっていると強く感じています。

住田 本レポートを通じて、これまで伺ってきたワコールの強みを効果的に説明し、より多くの人々に知っていただきたいと思います。さらに、本レポートをグローバルに発信していくことは、ビジネスを進めていく上でも、現地での企業理解向上の助けにもなるはずです。ワコールならではの価値創造を可能な限り正しく伝えてもらいたいのですが、完全に伝え切ることは大変困難です。しかし伝わり切らない部分に対して読者からさまざまな反応があれば、どのような読者がどのような点に興味を示すのかを捉えることができると思います。
これまで一般的な企業の年次報告は財務情報が中心であり、あるいは非財務情報でもガイドラインに沿う形で受動的に記載している企業が大多数です。ワコールはぜひともフレームワークを意識しすぎることなく、発展段階であっても、個性を生かしたわかりやすいレポートを前向きに発信してもらえるとありがたく思います。本日は、いろいろと幅広いお話をありがとうございました。

ワコールホールディングス京都本社にて

住田孝之氏 略歴